「ありがとう」

 と微笑んだママは階段で座り込んでいた。
 ここの裏の階段だ。自分の部屋に向かおうとしていたのか、下りて来たところなのか。

 ママは私が差し出した水のグラスを受け取った。

「チャミが……、前にここにいた子がね。あいつの、松村のところにいたの」

 私が何かを聞く前に、ママが言った。
 チャミって子の話は、ここに来てから何度も聞いていた。芸能事務所に入ると言って事務所の人に会いに行ったきり戻ってこなくて音信不通になったという子だ。

「ジュリちゃんが連絡していたみたいなの。やっぱり騙されていたのよ、可哀想に」

 ママが泣いていた。私もそれを見て、胸が痛くて泣きそうだった。

 そして、考えていた。やっぱり私が動かないといけないって。
 誰かを救いたいという強い想いが湧き上がっている。

 でも、それは会ったこともないチャミではない。

 私はママに話そうか迷っていた。その家に私の友達がいるということを――――。