お母さんが亡くなった六歳の頃。

 夜になってベッドに入ると、毎日お母さんの顔が浮かぶようになった。

 それは決まって無表情で私とは目線の合わないお母さんで。

 だけど、時々言う。
「夕璃は笑っているのね」と。

 あの日、テッちゃんの家でのクッキー作りを楽しみにして笑っていた私へ、実際にお母さんが発した言葉だった。

 あの時は気づかなかったけど、お母さんは私が笑っているのは嫌だったんだ、と思ったのだ。

 だって、あのお母さんの視線は鋭かった。
 あの時の口調はキツかった。

 なのに、私は浮かれていてわからなかった――――。

 六歳の私はベッドの中で何度も涙を流していた。

 お母さんはきっと、最後は私のことを好きじゃなかったんだ…………。

 そう思うと、納得できることがたくさんあった。
 
 私を見なくなった。話しかけてくれなくなった。
 話しかけても返事をしなくなった――――。

「お母さんは疲れているんだよ」

 と、お父さんがよく言っていた。

「お父さんもお話ししてもらえなくなっていてね」

 たしかに、お父さんが話しかけてもボンヤリしていることが多かった。

 それでも時折お父さんには笑顔を見せた。

 だから、きっと私にも笑ってくれるんだと信じていたの。

 だけど、私には笑ってくれなかった。
 やっぱりお母さんは私を嫌いだったんだ。

 そんなことばかりが頭の中をグルグル巡り、私は夜になるといつもいつも泣いて、泣き疲れて眠るのが常だった。

 お父さんに見つからないよう布団を被っていたけれど、きっとお父さんは気づいていたのだろう。