淡いペパーミントグリーンのテーブルクロスが微かに揺れ、冷房の効いた店内に蒸気のような夏の風を感じた。

 振りむくと白木のドアが開いて、華奢な身体をやや猫背気味に保つ、どこか不安げな印象のミーナの姿が見えた。

 椅子に座ったまま片手をあげると、相変わらずどこを見ているかわからないけれど、見つけてくれたようでこちらへ近寄ってきた。

「夕璃、一人よね?」

 警戒心を全開にして、開口一番にそんな言葉を投げられた。

「うん。そっちは?」

「そっちって……」

 ミーナが不審そうに眉を寄せた。

 私が彼女をなんて呼んでいたのかなんてわからない。
 ミーナ? ミーナちゃん?
 それとも、本名?

「誰かにつけられていないか、ちゃんと確認したよね?」

 ミーナがおかしなことを口走る。
 これが、詩音さんの言っていた妄想癖だろうか。

 その鋭い目が今はしっかりと私を見ていたから、安心させるためにうなずいて見せた。


「それで? 夕璃はこの数日、どこにいたの?」

「…………それって、どういう意味?」

「だから、自分の部屋に帰ってなかったでしょ? 荷物はそのままだけど、出て行ったみたいだって。お店のママさんもおとなりの仲良しだった、なんとかちゃんも言ってたよ」

 お店っていうのは、やっぱりあのスナックShin-Raiのことだろう。

「なんとかちゃんって、ジュリちゃん?」

「そう、そんな名前の子。〝あれ〟が気になって夕璃のところに行ったら、なんか大騒ぎしていたよ」

〝あれ〟――――?

 って、なんだろう?

 私はこのまま、記憶がないことを隠したまま話を進める自信がなくなってきた。

 かと言って、彼女との関係も全く見えないし、目つきも言動も挙動不審なところのあるミーナが信用に値するのかもわからない。

「家に、帰っていたの」

 とりあえずそれは本当のことだから、それだけ言ってみる。

 それを聞いて、ミーナが息を飲んだのがわかった。

「――――そう。じゃ、〝あれ〟は…………?」

「…………なに?」

「だから――――」

「Bモーニング、お待たせしましたぁ!」

 ミーナがなにか言おうとした時、私の注文したパンケーキのモーニングプレートを持ったギャル風の店員さんがやって来た。

「ご注文、決まっていたらどうぞぉ」

 頬にえくぼのできる店員さんがミーナに笑顔を見せると、ミーナはメニューも見ずに「同じものを」と言った。

「ちゃんとメニュー見なくていいの?」

 店員さんが去ったあとに思わず聞くと、ミーナは不審そうに上目使いでこちらを見た。
 と言っても視線は合わない。

「いつもあたし、それ頼んでるじゃん」

「あっ、そうだった?」

 曖昧に笑ってごまかすしかない。