「わぁっ、お店のコーヒーみたい!」

 菜々がパッと花が咲いたように無邪気に笑った。

 マグカップに入った菜々のコーヒーには、ソフトクリームのように盛りつけた生クリームの上にチョコレートソースをかけていた。
 それだけで見栄えが良くなる。

「夕璃は普通のコーヒーなの?」

「うん。甘い飲み物ってそんなに好きじゃない」

「そうなの? 甘いもの好きなのに!」

「だから、甘いものを食べる時には甘くないコーヒーを飲むのが好きなの」

 菜々とは甘いものの好みは合う。だけど菜々は甘いものと甘い飲み物を一緒に食し、私はそれができないという違いがある。

「そうだ、お母さんが夕璃のこと心配しているの」

「えっ? 菜々のお義母さん? それって、どこまで話したの?」

「えっと、怪我したって話はしちゃった。でも、他のお母さんに言ったりしないから大丈夫だよ」

「うん……」

 誰かに漏らされるとか、そこまで警戒しているわけではないけれど。

 ただ、私は驚いていた。
 十歳の時から母親になった義母のはずだけど、菜々はすっかり心を許してなんでも話す仲になっているから。

「菜々のところは本当に仲良しだよね。義理の母娘とは思えない」

「どうなんだろうね。私は実の母娘の感覚が分からないから。お母さんとは血のつながりがないって認識はあるの。だけど、そういうの関係ないんだよね。生んでくれたお母さんではないのは確かだけど。記憶の中では、私のお母さんは今のお母さんだけだから」

 そう言われてしまうと、私の記憶の中では私にもお母さんは一人しかいない。
 それも、ほとんど私に興味がなかった母親だった。

 幼い頃は少しだけ私を見ていたこともあったと思い出したけど……。