「この二週間、ずっと気にしていてくれたならわかるよ。だけど、テッちゃんも菜々も私がいなかったことなんて知らなかったでしょ?」
それに、テッちゃんが菜々を好きだなんて、菜々は知らないでしょ?
今、どんな複雑な状況なのか――――。
大体、テッちゃんは兄貴モードになると、私がテッちゃんを好きなことも飛んでしまうんだろうか。
私がテッちゃんを好きだったなんて、きっとテッちゃんには迷惑でしかなかったんだろう。
それは痛いほどよくわかった。
だけど、そんなことを菜々に言えないし、話すつもりだって無い。
「――この二週間、なにも知らなかったから」
菜々がやけに低い声で呟くように言った。
「だからこそ、今度はそんなショックを受けたくないの。私の知らないところで、夕璃が死にたくなるほど悩んだり追い詰められたりするなんて――――」
後半は涙声になっていった。
そんな風に言われてしまうと、さっきの言葉で菜々が傷ついたんだとわかる。
だけど、この二週間の記憶も戻らないうちは、私にはなにも言うことができない。
「――――菜々、親に連絡入れた?」
「えっ?」
急に話題が変わって、菜々が少し気が抜けたように目を見開いた。
「だから、うちに泊まるって」
「あっ、まだ……。ちょっと電話するね」
菜々がスマホを出したから、私は「コーヒー入れて来るね」と言って部屋を出た。
少し甘えた可愛い声を出した菜々が義母に当たる人に「お母さん」と呼び掛けているのが微かに聞こえた。
キッチンでドリップコーヒーを淹れながら、私は親に甘えるという感覚を持ち合わせていないことに気づいた。
いつも私を見ていなかったお母さんには、甘えるなんて考えを持ったことさえないと思う。
お母さんが亡くなると、お父さんの邪魔にならないようにと気を遣っていた。
お父さんはお父さんで、私に気を遣っていたのを知っているけど――――。
「私って、きっと可愛くないんだろうな……」
思わずそんな言葉が零れ落ちる。
テッちゃんにも甘えたことは無い。
だから、きっとテッちゃんは私を気にしているのかもしれない。
そういえば、菜々は時々テッちゃんを頼っているように思う……。
何かとテッちゃんが菜々の周りをうろついているから、よく「栗林君はこういうのどう思う?」とか意見を聞いたりしている。
それは、私に対してもするようなことだから、菜々の方は特別というわけではないかもしれないけれど。
テッちゃんはきっと、ちょっとしたことで頼ってくれる菜々みたいな子はかわいいんだろうな。
じゃなくて、好きな子だから嬉しいのかもしれないけれど……。
そう。結局、女子として好かれていない私は何をやっても敵わないってことだ。
分かっているのだけど――――。
私は冷蔵庫からチューブ型の生クリームを出すと、甘党の菜々のコーヒーの上に目いっぱい絞り出した。