結局、菜々を家に泊めない選択肢はなかった。

 これ以上、テッちゃんが好きな菜々と一緒にいるのは心が苦しいのに、「泊っていきなよ」なんて笑顔で言ってしまう自分が恨めしい。

 テッちゃんだって一人暮らしってわけじゃないんだから、テッちゃんの家に泊めるってこともできたはず……。
 なのに、いい人を演じてしまう私。

 ううん、ちがう。
 いい人に見せかけて、本当はテッちゃんの家に泊まることだけは阻止したかったんだ。
 
 だけど、菜々が近くにいるのは苦しい。
 菜々のことは変わらず大好きなのに――――。


「ごめんね、夕璃。記憶を失くしてケガだってしているのに、なんか面倒かけちゃって」

 私の心が態度に漏れているのかもしれない。
 部屋に案内したときに、菜々が少し気まずそうに言った。

「えっ? なんで? 私の態度がおかしかった?」

 できるだけ穏やかな声を出すと、ナナが少しホッとした表情になった。

「栗林君と別れてから、夕璃、ずっと無言だったから」
 
「そっか。ちょっと疲れちゃって……」

 私は微笑むこともできずに、クロ―ゼットから部屋着のワンピースを二つ出してひとつを菜々に渡した。
 それを受け取りながら、菜々は相変わらず心配そうな表情で私を見た。

「そうだよね。真樹紅で危険なことはなかった?」

「うん――」

 ふと、家出少女を家に置いてヤバいことをさせているという紳士風の男の姿が頭に浮かんだ。
 それに、目の焦点が合わないミーナの姿も。

「危険な目には遭ってないけど、ヤバい人には会ったみたい」
 
「ええっ? そうなの?」

「いかにも危なそうな繁華街に行っちゃったから」

「やだぁ。だから、一緒に行くって言ったのに!」

 菜々が泣きそうな顔をするけど、この子が一緒にいても危険度が下がることはないだろう。
 そう思うとおかしくなって吹きだした。

「何がおかしいの? 心配したんだからね!」

「ごめん、ごめん。だって、菜々が一緒にいても同じだったと思うから」

「私が行くってことは、栗林君も行くってことじゃない! 男子がいたら、絶対にちがうよ!」

 単に菜々は今日のシチュエーションのことを言っているんだろうってわかる。
 だけど、まるで菜々とテッちゃんがふたりで1セットみたいというか、まるでカップルみたいだと思ってしまうと泣きたくなる。

「テッちゃんなんて、絶対に連れて行く気なかったよ」

「どうして? 栗林君、本当に夕璃を心配していたんだよ」

「知ってるけど。それでも、私はテッちゃんに振られたの。しばらくは会いたくなんてない」

 きっぱりというと、菜々が驚いた表情で怯んだ。