「でも、ありがとね。ふたりとも。心配してくれたんだもんね」
この期に及んでも、私はなんとか良い友達でいようとしている。
そんな自分を情けないと感じる私がいる。
いい人を演じて本音で生きていない、と自分自身を批判しているくせに。
だけど、仕方がないじゃない。
私は振られたけど、テッちゃんのことも菜々のことも好きなことに変わりはない。
まるで駄々っ子みたい。テッちゃんに想われないことを悲しんだって、嫉妬したってどうしようもないことを知っているんだから。
「帰ろう」
私の複雑な心を汲み取ったように、悲しそうな嬉しそうな複雑な表情で菜々が軽く腕を引いた。
「ひとつ問題があってさ」
乗り換えのホームに上がるエスカレーターに乗り込んだ時、テッちゃんが頭を掻きながらつぶやくように言った。
「問題?」
「そう。俺、自分の家の終電を考えていたけど、宮城の方は考えてなくてさ」
「えっ? 大丈夫だよ。この時間で帰れる」
菜々がスマホで確認しながら、小さくうなずいている。
菜々の家は私たちの住む甘利駅の手前だから、帰れないはずはないと思うのだけど。
「いや、だからさ。送っていくと俺が帰れなくなるじゃん? けど、ひとりで返すには遅すぎるからさ」
そういうことか、と小さく息を吐いた。
「大丈夫だよ。お母さんに迎えに来てもらうから」
「さっき、両親が旅行中だって言ってなかったか?」
「あっ、うん。まあね。そうなんだけど――――」
菜々はきっと、ひとりで歩いて帰ろうと思っていたのだろう。
少しくらい暗くても、危険なことなんてないと楽観視していて。
たしかに、普通に暮らしていて危険な目に遭うのは稀だけど。
テッちゃんはきっと、菜々に関して楽観視なんてしていない。
菜々のことを好きだから。
そんなことを改めて考えてしまうと、どうしても心が落ちてしまう。
「だから、真樹紅なんて行かないで、あの時に菜々を送って行けばよかったのに」
私がつき放すように言うと、テッちゃんはムッとしたのがわかった。
「なんだよ、もとはと言えばおまえが心配かけるようなことするからだろ? そうだ、宮城、夕璃の家に泊まれよ。家に帰っても誰もいないんだろ? 夕璃の家なら通り道だから、俺だってふたり一緒に送れるし」
「あっ、そっか。夕璃、大丈夫?」
菜々は何度か家に泊まったことがあるから、数少ないお父さんにも認識されている友達だ。
通常の時だったらなんの問題もないから、寧ろ私から「泊って行って」と言うところだとは思う。
だけど、どうしてそんなタイミングが菜々と早く離れたいと熱望している今なんだろう。