すぐに菜々から電話が来たけど出なかった。

 まもなくメッセが届いたから電源を切ろうかと思ったけど、そっちはスミレからだった。

『帰っているの? 短期バイト終わったの? 楽しかった?』

 まだ早川君からなにも聞いていないのだろうか。
 それとも、知っているけど当たり障りのない会話をしているのだろうか――――?

 私には後者だろうと思えた。
 早川君はスミレに忠実な彼氏だったから。
 絶対にウソや隠しごとはしないと忠誠を誓っているんじゃないかと思うくらい、少し彼に話したことはなんでもスミレに筒抜けだ。

『来週からチア部の合宿始まるから』

 私もその当たり障りのない会話に乗っかって返信した。

『そっか。ずっと既読つかないから心配するじゃん』

 あまり絵文字を使う子じゃないのに、にこにこ笑顔の絵文字が使われているから、わかりやすいくらい不自然だった。

『スマホを部屋に忘れて行ったの。ごめんね』

 それでも、私はなにも指摘せずにクマが手を合わせて謝っているスタンプも一緒に送った。

『そっか、仕方ないね。じゃ、明日久しぶりに会わない? 菜々と三人で』

 またまた不自然なキラキラマークやハートマークなんてつけている!
 スミレは絵文字なんて面倒だって、一言メッセも多いのに。

 菜々とは今日会った、なんて言うと激怒されるかな?
 そして、明日はミーナと会う予定だ。

『夕方ならいいよ。四時とか。家に来る?』

 午前十時にミーナと真樹紅で会うけど、終わりは何時かわからない。
 とはいえ、さすがに夕方にはならないと判断した。

『じゃ、お邪魔するね』

『うん、四時に甘利駅に迎えに行く。菜々には連絡しておくから』

 最後におやすみスタンプを押して、このメッセでの会話を終わらせた。

 そして、考えた
 今、菜々に明日の予定のことなんて送ったら、きっとテッちゃんも参加するんじゃないかと。

 だったら、菜々に連絡するのはやめようかと考える。
 まだ菜々の顔は見たくないかもしれない……。

 スミレと二人で話す方が気が楽だな。

 菜々に連絡しないと決めると、少しだけ心が軽くなった。

 菜々のことは大好きだけど、今はまだ仕方がないんだと自分を許そうと思っていた。