それから、昨日からずっと未読にしていた溜まったメッセージを開いてみた。

 この二週間の間、スミレから日に何通ものメッセが送られていた。
 
 早川君から真樹紅行きを聞いて「真樹紅でバイトするって、どこでするの?」というものから始まり、ずっと未読だと気にして「大丈夫? なにかあったんじゃない?」と心配している。
 そのタイミングで着信もあった。そして、ずっと心配してメッセを送り続けている。

 最近は「今日は慎ちゃんとプールに行ったよ。今度菜々と三人で行こうね」とか、他愛のないことも送ってきている。
 たぶん、私から返信しやすいように色んな内容を送っているのだろう。

『心配させてごめんね。もう家に帰っているから』

 それだけ書くと、かわいいトイプードルが謝っているスタンプを選んで送った。

 そのタイミングで着信が来て、操作していた流れで通話ボタンを押してしまった。

『おまえ、今どこにいるんだよ!』

 テッちゃんだった。かなり怒っているのが伝わってきて、私の胸に緊張が走った。

『栗林君、そんなに怒らないで。夕璃が逃げちゃったらいやだ』

 泣きそうな菜々の声が小さく聞こえた。
 テッちゃんの隣にいるんだ、と思うと、私の方も泣きたい衝動が湧き上がる。

 私がなにも答えないと、テッちゃんが小さく咳払いして、今度は優しい口調で言った。

『切るなよ、夕璃。俺たち今、真樹紅に来ているんだ』

「えっ?」

 思わず声が漏れた。
 
『だけど、こんなとこでおまえを見つけられるとは思えねえ』

「そ、そりゃ、そうでしょ」

 こんなに広い真樹紅なんだもん。
 私も繁華街に絞って歩き回っても、知っているところなんて見つけられなかった。

 詩音さんに声をかけてもらえて本当に良かった。

『もう帰れなくなるぞ。迎えに行くから、いる場所教えろよ』

「言われなくても、ちゃんと帰るつもりだったよ。もう駅にいるから。そっちこそ、帰れなくなったらどうするの?」

『宮城も一緒にいるんだ、そんなことしねえよ』

 その言葉を聞いて、また打ちのめされる。
 ここで合流したって、ふたりのことを見るのが辛いだけだ。

「じゃ、ちゃんと菜々を送り届けてね。私もちゃんと帰るから」

 少し冷淡に言い放つと、私はそのまま通話を切った。

 うしろ髪引かれる気持ちがないわけじゃないけど、勝手に追いかけて来たんだから私には関係ないんだ、と思うことにした。
 別に菜々はテッちゃんを好きじゃないかもしれないけど、それでも、あのふたりの空気感を目の当たりにするのはいやだった。