二階にある学食に着くと、窓際の席にテッちゃんの姿を見つけた。彼の方は私が来たことには気がつかず、スマホを片手に持ちながらぼんやりと窓の外を眺めている。
窓の外は校門までの一本道で、下校している生徒たちの姿がよく見える。テッちゃんはまるで誰かを探すようにその道を見つめていた。
「テッちゃん、お待たせ」
「おう」
少し驚いた顔をして振り向いたテッちゃんは、もう一度窓へ目をやって「人違いか」と呟いた。
「誰か探していたの?」
「ああ。まあ、あいつ。宮城が夕璃と歩いているように見えて。けど、そうだよな、おまえはここに来るんだもんな。ハハッ」
テッちゃんはガラにもなく少し頬を赤らめて照れ笑いを浮かべている。
こんな表情をするのは菜々に関することだけだって知っている。だけど、こんな表情をするのは私の前だけってことも知っている。
それはきっと、私だけがテッちゃんの菜々への気持ちに気がついていて、テッちゃんにとって私は気を許せる幼なじみだから……。
「何食う? 今日は空いてんな」
いつものように気軽に私の頭に手を乗せると、テッちゃんはお財布を持って立ち上がった。これから私が想いを伝えようとしていることなんて微塵も感じていないのだろう。そう思うと、なんだか切なくなる。
この人にとって、私はあくまでも恋愛対象ではない、昔から知っている慣れ親しんだ幼なじみという位置づけ。
「っと、母さんだ」
口をへの字に曲げながら、テッちゃんが食堂から入って来たお母さん五人組を見て背を向けた。保護者会は午後からだけど、時々こういう日にママ友ランチ会で学食や近所のレストランやカフェに集まる保護者は少なくない。
「駅前のファーストフードでも行くか? 母さんがいると落ち着かねえ」
「ふふっ、おばさんと仲いいのに」
「悪くはねえけどさ、学校では会いたくないよな。おまえも今は声かけんなよ」
おばさんと会うのは久しぶりだから話したい気持ちもあったけど、今はそんな余裕もないくらい何だか緊張していた。