だけど、甘かった。
二時間以上も真樹紅の街を歩いているけれど、相変わらず見たことのある風景もお店もなにも無い。
前から楽しそうに歩いている、飲み会帰りっぽい若い女の子のグループがやって来たから、思い切って声をかけてみた。
「あの、この辺りで若い子が集まるような場所ってありますか?」
時間が遅くなるにつれてガラも悪くなってくるから、私は出来るだけ若者が多い場所へと移動したかった。
「若い子ぉ?」
「あたしらも若いけど、この辺の居酒屋で飲むよねぇ」
そう言うと、みんなでケラケラと笑っている。
酔っぱらっているから、聞く人を間違ったかもしれない。
「新しくできたタワーは時間関係なく賑わってるよねぇ」
「そうそう、この辺には珍しく健全だしね」
健全、というと少し遠のく気がした。
ショッピング街とかでは無く、ちょっと危なそうな夜の街が私の心にヒットした気がしたから。
そして、タワーと聞いて思い出した。
私はテレビで見た背の高い筒状のビルを〝知っている〟と感じたんだ。
「タワーって、筒状の細長い高い建物?」
「ああ、それならすぐそこにあるLGタワーね」
「LGタワーって、有名なDJの来るクラブ入ってなかったぁ?」
「ああ、シンセイってDJのいる店! 今、人気だよねぇ」
そう言うと、一人の女の人が私の横に並んで大通りの向こうにあるビルを指差した。
それはまさに、私がテレビで見た筒状の背の高いビルだった。
「そこの大通り渡ったとこにある、あの背の高い雑居ビルね」
「ありがとうございます」
私は軽く頭を下げて、そのLGタワーの方へ向かった。
その有名なDJがいるクラブは地下にあるようで、とりあえずエレベーターを待ってみた。
そうだ、真樹紅には色んなお店がある。
テレビで観た株岐庁は酔っ払いが歩いているような街に心が反応したと思った。
だけど、だからと言って、私がそういう場所でバイトをしていたとは限らない。
繁華街なんて身近になかったからカルチャーショックだったけど、それは二週間前の私も同じ感覚だったんじゃないかと思えた。
つまり、その衝撃は大きかったけど、私が働いていたのは別に水商売とは限らない。
エレベーターで地下に降りると、中は特に見覚えが無かった。
知っているというのは気のせいだったんだろうか――――?
暗い通路に派手な男女が数人たまっていて、それだけでちょっと怖いイメージがあった。
だけど、金髪頭の今は私も同類に見えるかもしれないと思い、堂々と歩いて奥のチケット売り場の方まで歩いた。
料金を確認すると、思ったよりも高い。
入ったことが無くて勝手がよくわからないから、慣れた人と一緒に来るべきだと思えてすっかり気持ちが萎えていた。