私はこの二週間、こんな風に優しい誰かと出会ってどこかで暮らしていたのだろうか。
 それとも、さっきの怪しい紳士のようなヤバい人に捕まって、恐い想いをしていたのだろうか――?

 後者かもしれない、と咄嗟に思った。

 だって、死にたくなるほど思い詰めていたんだから……。
 それだけじゃなく、実際に暗闇で頭を殴られて襲われている。

 なにか危険なことをしていたとしか思えない――――。

 もしも私が狙われていたなら、真樹紅へ戻って来て良かったんだろうか?

 今更ながら、なにも考えずに出て来てしまったと気づいた。

 だけど、この二週間の記憶が抹消されたまま無かったことにして生きていくなんて、そっちの方が恐怖が湧き出てきてしまう。

 だって、二週間前と見た目も変わってしまって、今まで興味も無かった真樹紅の繁華街の映像を見てひどく心が動揺した。
 絶対にここに何かがあるんだって確信したのだ。

 とはいえ、実際に真樹紅に来てみても、なにも思い出さない。
 テレビで観た時のような衝撃さえない。

 見覚えのある風景とか、知っていると感じる場所も無ければ、自分がここにいたなんて実感も湧かない。

 それよりも、馴染みのない都会の繁華街にいることへの違和感しかなかった。
 ここにいるガラの悪い人たちや酔っ払いの人たちが攻撃的に見えて、関わり合わないようにと気を付けるので精一杯だった。

「もしかしたら、この辺りじゃないのかな……」

 金髪になっている私は、昨日はキレイにメイクもして服装も派手目だった。
 早川君に伝えていた通り、この街にいたのはそうだろうと思える。
 だって、この街には昨日の私みたいな女の子がたくさん歩いているから。

 見覚えがないのは、単にこの辺じゃなくて違う場所にいたのかもしれない。
 この辺りは住宅地ではないし――――。

 闇雲に繁華街を歩いていても仕方がないのかな。

 それでも、あてもなく歩き回るしかない。
 見覚えのあるものを見つけるまで。