「だから、興味があればキミも来てみないか? 部屋はたくさんあるんだ。彼女たちにはシェアハウスみたいな感じで楽しいらしいよ」

 相変わらず家出少女だと思われているようだけど、あまり誘われると逆に引いてしまう。

 この人は私を知らないようだから、この二週間の間に私がそのシェアハウスにいた、なんてことはないだろう。

「よう! 待たせたな」

 ふいに、肩を叩かれた。
 振り向くと、派手な短髪の赤髪をツンツンと立たせた細身の男の人が立っていた。

 誰…………?

 見たことのない人だけど、私の肩に手を乗せて親しげな素振りを見せる。

 そして、さっきの紳士を鋭い目つきで睨んだ。

「で、おっさんは何? 俺の連れになんか用?」

「いや、道案内をしようと思っただけなんだ。待ち合わせだったんだね」

 そう言うと、さっきの紳士は何ごとも無かったように去っていった。

 なにが起こっているのかよくわからず、私はこの赤い髪の派手なシャツを着た男の人を見上げた。
 誰かわからないけど、もしかして私のことを知っている人なの?

 私が顔を見ていると、何かが通じたように彼がプッと吹き出した。

「気をつけなよ。あいつ、この辺じゃ有名なヤバい奴だからさ」

 そう言うと、赤髪男子は私の肩をもう一度叩いて去ろうとした。

「待って。ヤバいヤツって?」

 思わず手首をつかんでしまった。
 彼は少し驚いた表情をしたけど、それでもその細い目は優しくほほ笑んだ。

「あいつ、家に家出少女の面倒を見るっていって、ヤバい仕事させて貢がせてんだ。身なりのいい優しい紳士的なヤツに見えるだろ? 田舎から来た世間知らずの子は信用しちまうみたいだな。ああいうのほど豹変するから、マジで気をつけな」

 つまり、この人は見ず知らずの私を助けてくれたんだ。
 と、ようやく理解ができた。

「あ、ありがとう。あの、つまり、あなたは私の知っている人じゃない――よね?」

「ハハッ。いきなり声かけたから混乱させたな。ま、この辺にはああいうのもいるから。のこのこついて行くと取り返しのつかねえことになるからな」

 そんな恐い言葉を残して、見た目は派手だけど優しい人は手をひらひらと振って去って行った。

 都会には色んな人がいるんだな――――。