真樹紅駅には出口がたくさんあった。
私はどこに出たら良いのかわからず、まず改札の手前で足止めをされてしまった。
よくわからないけど、きっとガラの良くない場所。
そう、繁華街の方。
だって、テレビの中のネオン街の様子を見て、私の心が反応していた。
スマホで調べてみると、西口から出ると有名な株岐庁がある。ちょうど西口改札の近くにいたから、私はそのまま外へ出た。
はじめての真樹紅の繁華街は歩くのも緊張した。
いや、でもきっと私は初めてではない。
それに、ショーウィンドウに映る金髪の自分はこの街に馴染んでさえ見える。
頭の包帯が少しみっともないけれど……。
「どこへ行けばいいんだろう……」
あてがあるわけではない。
だけど、どこかに自分の記憶の欠片があるように思えてならなかった。
だって、テレビの画面を通して、あんなに心が動揺したんだから。
この繁華街を闇雲に歩くしかなかった。
チェーン店の居酒屋におしゃれなバー、若者が集うクラブにおじさん達が通うキャバクラ。
飲み屋さんと言っても色々とある。
道行く人も色々だ。
飲み過ぎて歩けなくなった女の子を、仲間の男女が数人で「大丈夫?」「タクシー呼んだよ」なんて声をかけながら介抱している。
前方からは、明らかに酔っぱらっている男の人が、付き添うように寄り添う派手めの女の人と歩いてくる。
小競り合いで大声をあげているガラの悪い人もいる。
「おっと、危ない」
キョロキョロと辺りを見回して歩いていたから、背の高い男の人とぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい」
怖い人だったらどうしよう、と焦って頭を下げたけど、高そうなスーツを着た細身で長身のダンディな中年紳士が目を細めて笑っていた。
「こちらは大丈夫。キミは痛かったんじゃないか?」
たしかに、思いっきりこの人の胸に鼻をぶつけてしまった。
「大丈夫です!」
一礼して去ろうとすると、腕を捕まれて驚いた。
「えっ?」
「ああ、こめんね。キミは見ない顔だけど、もしかして、家出してきたんじゃないか?」
「家出!? 違います! ちょっと観光というか……」
「ああ、そうか。ごめん、こめん。いやあ、この辺りは多いんだよ、家出少女がね。だけどここはすごく治安が悪くてね。だから、ここで会った子達は家に招待しているんだ。シェルター的な場所として提供していてね。もちろん、そのあとは自立の手伝いをしているんだけどね」
すこい! 善人っているんだなあ。
私はすっかり感心してしまった。