「――――誰も来なくていい」
低い声でそう言うと、私は駅の方へ歩き出した。
「俺は行くからな」
「私だって!」
テッちゃんと菜々がついてくる。
早川君は困ったように頭を掻くと、少し遅れて歩いてきた。
駅の改札までくると、私は真樹紅方面の電車がもうすぐ来ることを確認した。
改札の手前で立ち止まって振り返ると、私は笑顔を作ってテッちゃんを見た。
「テッちゃんは菜々を送ってあげて」
「なに言ってるの? 夕璃が真樹紅に行くなら、私だって行くんだから! 夕璃ひとりだと心配だよ」
それはきっと、私が川原で殴られたことや、死のうとしていたであろうことを言っているのだろう。
菜々を置いていくと、テッちゃんに余計なことを言うのだろうか?
「菜々、テッちゃんにこのケガの話しとかした?」
小声で菜々に確認した。
テッちゃんには殴られたとか、そんなことを言って心配させたくない。
「言わないよ。遺書の話もしていない。だけど、真樹紅に行ってたのは早川くんが話していたし、頭ケガして金髪になって記憶がないんだから、栗林君だって心配しているよ」
それは、そうかもしれない。
だけど、誰かに狙われているかもしれない方が危険が大きい。
改めてそのことを考えると私だって恐いのだけど。
「とにかく、余計なことを言わないでね」
そう菜々に囁くと、テッちゃんがこちらに近づいてきた。
「何こそこそ話してんだよ」
「なんでもない。菜々の家までの道、結構暗いんだよね。送ってあげてね」
私はそう言うと、サッと改札を通ってエスカレーターを駆け上がった。
テッちゃんが怒った声をあげたのが背中に聞こえるけれど、ホームに鳴り響く発車ベルの音とともに閉じようとしていた電車のドアの中へ滑り込んだ。
追いかけてきたテッちゃんはホームに残され、そのあとを菜々と早川君が追いかけてきたのが見えた。
ホッとしたはずなのに、私の心は不安で押し潰されそうだった。
このままひとりで真樹紅へ行くなんて、心細くないはずがない。
だけど、私は二週間前だってひとりで行ったはずなんだから。
どうして真樹紅なんて行ったのか、二週間も何をしていたのか、そして、死のうとした理由も殺されそうになった理由もわからない。
全てが不安で恐いけれど。
それよりも、記憶がないことの方が恐かった。
知らないうちに自分が何をしていたのか、私は知らなければいけない。
たとえ記憶が戻らなくても、私は自分の二週間を追わなければいけないと強く思っていた。