「いいよ、どこに行く?」
菜々が机の横にかけていたスクールバッグを取りながら立ち上がったけれど、私は座ったまま両手を合わせて「ごめん」と言った。
「私、今日はパスする」
「なに? 用事?」
「えっと……まあ、ね」
スミレの言葉にどう答えようかと考えた時、テッちゃんが私の頭を軽く小突いて通り過ぎた。
「痛っ」
「ハハッ。飯食うなら、食堂でいいよな? 席取っておくから」
振り向いたテッちゃんが爽やかに片手を挙げて去って行くと、菜々とスミレの視線が私に集中したから、自然と顔が火照るのを感じて思わず両頬をおさえた。
「ああ、なんだ。そういうことねぇ」
ニヤニヤとからかうように笑って菜々が顔をのぞき込んできたから、思いっきり「しー!」と指を口に当てた。
だけど、親友であるふたりにはきちんと伝えておこう。
「あ、あのね……。食堂では無理だと思うんだけど……、今日ね、このあとテッちゃんに告白しようと思って」
一瞬の沈黙の後、ふたりが顔を見合わせている。
あれ? きちんと伝わらなかったのかな……?
「あんた達、付き合っていないんだっけ?」
スミレがあからさまに驚いている。私もその言葉に目を見開きながら、大きく首を横に振った。
「違うの。たまに勘違いされるけど、本当にただの幼なじみなの。けど、私はやっぱりテッちゃんが好きで……」
チラリと菜々を見ると、菜々も驚いた表情をしている。
ってことは、菜々も私とテッちゃんがつき合っていると思っていたのかな……?
だとしたら、テッちゃんに悪かったかもしれない。テッちゃんは菜々を想っているんだから。
「そっかぁ!」
菜々が私の首元に嬉しそうに抱きついてきた。
「応援しているから、頑張って!」
「結果は必ず報告すること!」
そんな二人の声援を受けて、私は教室をあとにしてテッちゃんの待っている学食へ向かった。
付き合っているなんて誤解していたなら、二人はきっと成功すると思っているんだろうな。そう思うと複雑だった。だって、テッちゃんは菜々を好きだってことは本人も認めているんだから。
私は諦めようと思っているのだろうか……?
それとも、自分の気持ちを伝えたら何かが変わると思っているの……?