私は迷っていた。
 
 目の前で怒った目をしているテッちゃんたちに、近所に買い物に行くだけだ、と笑って誤魔化してもいいという気持ちもあって。
 だけど、誤魔化すためにスーパーへ行ったりして、ここで時間のロスをしてしまえば今日の真樹紅行きはなくなる。

 部活の休みが開けるまでに、あと一週間も無かった。

 部活の再開は合宿で、それは夏休みの終わりまで続く。

 つまり、真樹紅へ行くチャンスはこの週末しかないのだ。

 やっぱり、正直に真樹紅へ行くと話そうか。
 一人で行くのは危険も伴うだろうと思えた。

 だって、暗闇で後頭部を殴られたり自死を選ぼうとするなんて、異常事態だとしか思えない。

 だけど、できることなら一人で行きたい。

 誰にも迷惑をかけたくないというのもある。

 それ以上に、この二週間のうちに自分が何をしていたのか、人に言えないことをしていたんじゃないか、そんな不安があった。

 命を断とうとしたり命を狙われることがあるなんて、今の日常ではあり得ないことだから。


「夕璃がどうしても真樹紅へ行くって言うなら、俺も一緒に行く」

 テッちゃんが相変わらず怒ったような目でそう言った。

「私も一緒に行く。ここで見送って、夕璃になにかあったら絶対に後悔するもん!」

 菜々も両手のこぶしを握って、まるで覚悟を決めているような目で私を見る。

「俺も行ってもいいよ。スミレに声かけなきゃ怒られそうだけど」

 どこかのん気な調子で早川君が笑った。

「ありがと。でも、遊びに行くわけじゃないから」

 思わず真樹紅へ行くことを認めてしまったと気づいた。
 
「だな。おまえらは控えろよ。俺が付き添うよ」

 テッちゃんが菜々と早川君にキッパリと言った。

「そんなのずるい! 私は夕璃の親友だもん! 一緒に行くよ」

「ガラの悪い真樹紅なんて、宮城が行くところじゃない」
 
 テッちゃんの言葉に、私は胸が痛んだ。
 あくまでも菜々はテッちゃんの恋愛対象なんだと聞こえてしまう。

 そんな場所に菜々を連れて行きたくないんだ。

 そう思うと、醜い嫉妬心が沸き上がる。