菜々が帰ると急に眠気に襲われた。

 彼女の姿がなくなったリビングへ戻ると、それまでどこか緊張感があったのだと実感した。
 その反動で脱力感が押し寄せてきて、眠くなったのだろう。

 堪えきれずにソファの上で横になると、すぐに瞼が重くなって意識が遠くへ引かれていく。

 微かに残っている私の意識が、傷が治ったらすぐにこの金髪を染め直そうと考えている。
 チアリーダーの練習が数日後には始まるから………。

 やがて深い闇のなかへ落ちるような感覚に陥った。



『ナナちゃんは金髪が似合うと思うな』

 知らない女の子の少し甲高い笑い声が聞こえた。

 誰?
 菜々の話をしているの?

 だけど、その声は私に向かって話しかける。

『やっぱり、ナナちゃんは化粧映えするよね』

 私は菜々じゃない。
 どうして菜々って呼ぶの?

 そんな疑問を投げつけたいけど、どうやらその子には届かない。

『これぇ、ナナちゃんに渡してって』

 明らかに酔っ払ったその子の顔が見えた。

 明るいミルクティ色の長い髪は綺麗に巻かれていて、派手にラメの散るアイメイクにピンクのグロス。
 裾についたフリルが可愛らしいけど、少し胸を強調した膝上丈のワンピースは上品にも見え派手さもある。

 ペットボトルの飲み物を私に差し出すその彼女には見覚えがあり、私は大きな親しみを感じながら『ありがとう、ジュリちゃん』と笑って受け取った。
 脳裏にその映像が現れて、私はハッとして起き上がった。

「夢――――?」

 だけど、とってもリアルに感じた。

 今のは私の記憶ではないだろうか。
 失われているこの二週間の記憶の一部では――――?

「ジュリちゃん……?」

 呟いてみても、さっき見た映像の子が誰かはわからない。
 だけど、あの夢の中の私はたしかに彼女のことを知っていた。