我が家は父子家庭だけど、菜々の家も数年前まで父子家庭だった。だからなのか、彼女からそこに同情や気遣いを感じることは無い。
菜々は確か、お義母さんとは十歳の頃から一緒に暮らしているということだった。その人との相性も良いのかもしれないけれど、菜々には人をホッとさせるような癒し系の空気感がある。
「本当にいい関係だよね、菜々のとこ。お義母さんと」
「まあね、相性がいいのかな。夕璃のお父さんなんてモテそうなのに、再婚はしないの?」
「さあ、知らないな。彼女はいたりいなかったりするみたいだけど、紹介されたことはないから」
新しいお母さんってどんな感じなんだろう? なんて、菜々の家庭の話を聞くと考えることはある。だけど、六歳の頃からずっとお父さんと二人の生活だったから、私には想像もつかない。
「ふふっ、ふたりで喋っていると、なんか雰囲気が似ているんだよね、あんたたちって」
スラリとした美脚が私たちの机の横に現れたと思ったら、すっかり帰り支度をしている海老原スミレが立っていた。
スミレは指定の制服のリボンはつけず、指定外の開襟シャツの襟を大胆に広げ気味に着る。スカート丈はかなり短く、その綺麗な足を見せびらかすように出している。お化粧もしているスミレは大人っぽくて、とても私たちと同い年には見えない。
「なんか、似ていない双子って感じだよね。二卵性ってやつ? だけど、同じ血が流れているような」
スミレの大きな声が教室に響くと、帰り支度をしていたクラスメートたちが同意を示すように「ほんと、似ているよねぇ」なんて笑っている声が聞こえた。
菜々と私は背格好が似ているようだけれど、雰囲気も似ているとよく言われる。
いつも素直で純粋な菜々は大好きで自慢の親友だから、私には似ていると言われることは嬉しくてくすぐったくなる感覚がある。
だから、菜々の真意は分からないけれど、周りから似ているねって言われると、いつもふたりで顔を見合わせて笑い合ってしまう。
「けど、ふたりともいつまで座ってんの? どっかでお昼食べに行こうよ」
教室の中ではみんなすでに部活や帰宅の支度をしていて、座っていたのは私と菜々だけだった。