そうだった。だから、夏休み前に告白したんだ。
 フラれるのは知っていた。
 夏休み中には菜々と会わなくて済むから、二学期にはリセットできると思ったの。

 なのに、こんな風に菜々と二人で話しているなんて。

 殴られて救急車に運ばれたりして、異常事態の中で菜々宛ての遺書なんて見つけてしまったから動揺しちゃったけれど。

 冷静に考えると、今はまだ菜々と会うべきじゃなかったと後悔してしまう。

 だけど、もう他の人に自殺未遂をしたかもしれないなんて話す気持ちになれない。

 こんなわけがわからない状況をひとりで抱え込みたくもなくて、今は菜々の存在がとっても有り難いのも事実だった。

 それでも、それ以上に今の私は菜々の顔を見ていることが辛いのかもしれない。 

 だって、テッちゃんと菜々のことを考えると、それだけで泣きそうになる。

 私は家とは反対方向の、駅につづく道へ進んで菜々を振り向いた。

「ごめんね、菜々。駅まで送るから、今日は帰ってくれる?」

「えっ?」

「ちょっと……ひとりで考えたいの。なにか思い出すかもしれないし」

 微笑んだつもりだったけど、うまく笑えていなかったのかもしれない。だって、菜々の顔がみるみる歪んで泣き顔になったから。

「菜々……?」

「嫌だよ、そんなの。思い出したら、夕璃は死にたいほど辛くなるんでしょ? そばにいなかったら死んじゃうかもしれないじゃない……!」

 ああ、そうか……。

 私もそれが本当に不安ではあるのだけど。
 それでも、今の私には菜々がとなりにいるのは耐えられなくなってきていた。

「大丈夫だよ。お父さんを悲しませたりしない。きっと二週間も離れていたから、お父さんの存在が遠くなっていて、どうかしていたんじゃないかな」

 この気持ちはその通りだった。

 私はお父さんを悲しませることなんてしない。
 お母さんが亡くなってから、私はずっとそれだけは守ってきたはずなのに。

 それでも信用できないのか、菜々が涙目で私を見ている。

「本当だよ。私は絶対にお父さんを悲しませたりしない」

「――――うん、そうだよね」

 菜々がようやく微笑んだからホッとした。
 それでも、菜々は心配そうな瞳でふり向きながら帰って行った。