「ちょっと、やめてよ。菜々を責めても早く終わるわけじゃないでしょ?」

 思わず菜々の前に立って庇うと、またみんなの目つきが変わって反感を買ってしまったのがわかった。

 だけど、まちがったことなんて言ってないと思い、「早く終わらせて帰ろうよ」と、私はそのまま作業に戻った。

「私はみんな同じじゃないと思うの。だって、人にはそれぞれ事情があるでしょ?」

 菜々がいつもの笑顔を封印して、うつむいたままそう言った。
 それはきっと、彼女には勇気のいった行動だろうと、いつも近くで見ている私にはわかった。

 だけど、それが更にみんなの反感を買ったんだろう。

「だったら、残りたい人がやれば!?」

 疲れた顔をした子が持っていたガムテ―プを床に投げつけてそう言うと、カバンを片手に「ユミ、サユリ、帰ろう!」と言って、友達をつれて帰ってしまった。

「やってらんねえ!」
「本当! 勝手に帰っていいなら帰る!」

 そんな声が続いてどんどん帰り支度を始める子が増えて、菜々はオロオロと泣きそうな顔になっていった。

 帰る気のない子達も疲れているのか、ただ呆然とその様子を見ている。

 私もどうしていいかわからず、思わずテッちゃんの方をふり向くと、彼は心配そうな表情で菜々を見つめていた。

 たぶん、私と同じように菜々の気持ちをよくわかっているという表情で。
 だけど、きっと親友の私とはちがう感情で――――。

 なんというか、どこか特別な気持ちを持っているんじゃないかと思える視線だった。

 そして、テッちゃんが笑顔を作ったと思ったら、急に大きな声で言った。

「宮城、俺は残るからな!」

 帰ろうとしていた子たちもふくめ、クラスみんなの視線がテッちゃんに集まった。