あれは去年の秋の、文化祭の前日準備をしている時。
一年生の頃も、私と菜々とテッちゃんは同じクラスだった。
私たちのクラスはお化け屋敷をするため、教室の窓を段ボールでふさいだり暗幕を吊ったりと大掛かりな準備に追われていた。
その日は部活も全面中止で、みんなバイトも入れずに作業に追われ、日が暮れてきたら疲れがピークになってきて、若干イラつく子も出てきていた。
そんな中、菜々はいつもの癒しの笑顔でマイペースだったけど、さりげなくみんなに気を遣って人一倍動いていた。
「やだ、もう六時! あたしバイトだった!」
ふいに一人の女子が声を上げ、みんなが一斉にふり向いた。
「アリサ、バイトって何? みんな今日はバイトは入れない約束だったでしょ?」
「そうだよ、俺だってバイトの日だったけど代わってもらったんだ」
一部のクラスメートからブーイングの中、アリサは「ごめーん!」と両手を合わせた。
「だって、こんなに遅くなると思わなかったんだもん。どうしても代わりがいなくてさ」
そう言っても、約束は約束だと言わんばかりに、みんな何も言わずに教室の中は静まり返ってしまった。
みんな用事なんかなくても、まだまだ終わらない状況が苦痛になってきていたのだ。
「い、いいよね? みんな。アリサちゃん、今まで頑張ってくれたんだし……」
普段はこんな意見を言わないタイプだけど、菜々が見兼ねてそう言った。
「本当にごめん! 明日の文化祭はいっぱい働くから!」
助け船を出されて、アリサはもう一度手を合わせるとダッシュで帰ってしまった。
そのあとも、クラスのみんなは何も言わず、作業にも戻らず静まり返っていた。
「菜々ちゃんさぁ、余計なこと言ったんじゃない?」
「そうだよ、誰もいいって言ってないのに、アリサのヤツ帰っちゃったじゃん」
「みんな帰りたいんだよ」
口々に責め立てられ、菜々は困ったように下を向いてしまった。