結局、テッちゃんと話しても、手紙は預けていなかったということ以外はなにもわからなかった。
わかったのは、テッちゃんと菜々がいる空間がとにかく辛いってこと。
私は想いが募って仕方がなくて、玉砕覚悟で告ったはずなのに。こんなにモヤモヤするなんて、吹っ切るためではなかったのかと自分自身にガッカリしてしまう。
「栗林君じゃないなら、誰に託したのかな? 夕璃の最後の手紙」
テッちゃんの家からの帰り道、同じくらいの視線の位置にある菜々が私の顔を見た。同じくらいの背丈で、よく似ていると言われたけれど。今はきっと誰も似ているなんて言わないだろう。
「『信頼のうえにある大好きな彼』ね。なんか、微妙な言い回しだよね」
この違和感はなんだろう?
だって、私はこんな言い方をしないと思う。
だけど、これは間違いなく私の文字で、私が書いた〝遺書〟だろうと思えた。
「ねえ、あの手紙には自分で望んだ死ってことが書いてあったけど、殴られたんだよね? 夕璃」
「うん、たぶんね。逃げた人がいたらしいから……」
若い女の人だったって話だった。誰なんだろう――――?
つまり、死にたいほど追い詰められていたうえに、誰かに殺したいほど恨まれているってこと?
そんな恐怖に駆られてしまった時、菜々の視線に気づいた。
「あのね、違うかもしれないけど……」
「なに? 菜々」
「あの遺書って書かされたんじゃない? 犯人に。だから、ハッキリと書けないとか……」
「そっか――――」
ちょうど横断歩道が赤に変わったから、私は立ち止まって肩掛けバッグの中から例の遺書のような手紙を取り出した。
「どうかなぁ。だったら、最後の手紙の存在を明かしたりする? 私が犯人だったら、最後の手紙なんて書かせないと思う。何を書かれるかわからないじゃない」
「たしかにね。夕璃だって、そんな手紙を犯人の目の前で書かないよね」
「と思うけど」
とはいえ、違和感はぬぐえない。
自死を強調するのは、真実かもしれないけど逆かもしれない。
それに、やっぱり〝信頼のうえにある大好きな彼〟って言い回しが気になる。
「だけど、私には二週間分の記憶が無いんだよね……」
それが全てを不安にさせていた。
ファッションだけでも正反対というほど変わっている。
なんらかの心の変化がないと、こんな思いきって外見を変えたりしない気がする。
だとしたら、今までの自分の感覚をどこまで信じていいのかもわからない。
「やっぱり、この二週間で出会ったのかな。その、大好きな彼って人に」
テッちゃんじゃないなら、それしかない。
だけど、たった二週間でテッちゃん以外の男子を信頼して大好きになったりしたのだろうか――――?