確かに、いくら信頼のできる大好きな人だとしても、振られたその日に手紙を託しに行くとは考えにくい。

 そのあと、どこで何をしていたのか分からないけれど……。旅行バッグに荷物をつめて家を出て、髪を金髪に染めて派手な服装をしていたってことは、きっとこの辺りにいたのではないような気がする。

 なんというか、そういう行動って〝変わりたい〟という願望のように思えてならない。今まで、自分の中にそんな願望があったわけではないのだけど……。

「栗林君はこの二週間、夕璃と連絡を取ろうと思わなかったの?」

 不思議そうな、というよりは、不満そうな表情の菜々が少し責めるような視線をテッちゃんに向けた。テッちゃんもそれを感じたようで、戸惑ったように目を泳がせている。

 菜々から見たら、付き合っているのに二週間も連絡を取らないの? という感覚なのかもしれない。だけど、テッちゃんはなんでそんなに当たりがキツいのか分かっていない。

「いや、普段なら頻繁に連絡とっていたんだけどさ……」

「あのね、菜々。私、あの日フラれたの」

 明るい口調でハッキリと言い切ると、菜々が口を大きく開けたままぽかんとした顔でしばらく静止してしまった。

「……えっ……うそ」

「ほんと。でも、テッちゃんの答えはきちんと分かったうえでの告白だったから」

「けど、じゃあ、家出の原因って……」

 菜々は言いかけてテッちゃんを気にして慌てて口をつぐんだ。

 私も若干そうかな? と思わなくはなかった。だって、振られた時には覚悟していたはずなのに、思った以上にダメージがあったから。

 それは、この二週間の記憶を失った今も引きずっている。

 だけど、そんなことでお父さんを一人残して家を出たりするのだろうか? とも思う。それよりも、だれかお客さんが来ていたということが気になっていた。

「お客さんが来ていたみたいなんだよね。お客さん用のティーカップが流しに置いてあったってお父さんが言っていたの。その人と一緒に家を出たのかもしれない」

「客? って、誰?」

「それは分からないんだけど……」

 ということは、結局は何もわからない。だけど、その誰かわからないお客さんがキーパーソンだろうと思える。だって、その人が来たのが何時なのか分からないけど、テッちゃんと別れた後に誰かと家であったことは確かで、そのあとに家を出ているはずだから。

「ねえ、私はテッちゃんに手紙を託していないんだよね?」

「手紙? さっき宮城もそんなこと言っていたよな? 何も預かってねえよ」

「そっか……」

 菜々宛に書いていた、あの謎かけのような手紙を見せようか迷った。菜々もおそらく「見せないの?」という表情でこちらを見ている。

 だけど、フラれた直後に家出して自殺まで考えていたなんて、テッちゃんに知らせるべきだとは思えなかった。