「どうかしたの?」
何も知らない菜々はスマホを片手にフリーズしている私を不思議そうに見ている。
そう、今は感傷に浸っている場合じゃない。近所に住んでいるテッちゃんとはふらりとお互いの家に寄ることはある。だから、私がテッちゃんの家に行って手紙を託した可能性はあるかもしれない。
だけど、メッセの文章がなかなか書けない。
「なんて書けばいいか分からない……」
「そうだよね。きっと心配するもんね、栗林君」
っていうより、単に気まずいだけだけど。呼びだした方が早いのかな……?
けど、テッちゃんの好きな菜々がいると、それはそれで心は複雑。
今までだってテッちゃんが菜々を好きなことは知っていたけど、私は幼なじみって位置づけで見守っているふりをしてきた。けど、今はテッちゃんを好きな幼なじみってことを知られてしまったから、ここで顔を合わせるのはやっぱり気まずい。
「菜々はテッちゃんのことどう思う……?」
「えっ? どうって?」
菜々が目を丸くしている。私の彼氏だと疑っていないんだから、どう思う? なんて聞かれても困るだろう。
「すごくいい人だと思うよ。優しいし、面倒見もいいよね。ヤンチャ過ぎず落ち着き過ぎずって感じで、スポーツマンだしカッコいいと思うよ」
明らかに親友の彼氏はカッコイイ、と言っているように聞こえる。
否定した方がいいのだろう、ってことは知っている。だけど、私の彼氏だと思っている限り、菜々がテッちゃんを好きになることは無いんだろうな。
そんな卑怯な自分の心の声に気がつくと、本当に自分がイヤになる。
「テッちゃんの家に行ってみようかな」
「うん、いいね。家、近いんだもんね」
「うん」
私はテッちゃんに『菜々が家に来ているの。テッちゃんの家にも寄っていい?』なんて他愛もないメッセを装って送った。
すぐに既読になったと思うと、速攻でOKのスタンプが返って来た。そして、『今から二十分以降な!』とメッセが届いた。
二十分はきっと菜々と会うための支度の時間かもしれない。菜々に会えることに浮かれているんだろうなって、とっても複雑な気持ちになる。だけど、私はきっと今後もこれに慣れなければいけないんだろう。想いを伝えなきゃ良かったのかな……。
「栗林君、なんだって?」
「二十分したら来ていいって。説明はなにもしなかったけど」
「そっか。家なら手紙もすぐに出せるもんね」
そんな主旨はすっかり忘れていた、と思って苦笑いしてしまった。それよりも、私の頭の中はテッちゃんと菜々のことの方が大きくて。
この二週間の記憶を取り戻したいことを、ほんの少しだけ忘れてしまっていたなんて――――。