「あのね、私が覚えているのはあの終業式の日までなの。テッちゃんに告白した後、帰りに菜々がLINEをくれて……菜々たちに手を振ったところまでしか記憶にない」

「でも、あれって二週間も前だよね?」

「うん。だから、二週間分の記憶が丸まるないの」

 私は昨日の夜から自分の身に起こった不可解な出来事をすべて菜々に話した。

 菜々はただ驚いて言葉を失っている。

「こんな話をされても困るだろうけど、誰に話していいのか分からなくて……。菜々宛の手紙を持っていたから、なにか知っているかと聞きたかったんだけど……分からないよね?」

「……うん、ごめんね。でも、これって栗林君のことじゃないの?」

 菜々は手紙をテーブルの上に置いて、『信頼のうえにある大好きな彼』という文字を指差した。
 確かに信頼できる大好きな男の子という意味ではテッちゃんしか思いつかない。

 だけど、これを読む限りでは、最後の手紙って本格的な遺書だよね? 菜々あての遺書をテッちゃんに託すなんて……自分がそんなことをするとは思えない。

 だけど、その可能性がないとも言い切れない。テッちゃんにフラれた私はこの二週間で何があったのか分からないけれど、最後にキューピット役をしようと思った……とか?

「栗林君は知っているの?」

 菜々が真っすぐな目で私を見る。私たちがつき合っていると疑っていないのだろう。

 私は黙って首を横に振った。

「もしも……もしもね。夕璃がこの二週間で物凄く辛い想いをしていて……その……そういう意味の最後の手紙ってことなら……それを読めば何かわかるかもしれないよね。栗林君に聞くのが一番じゃないかな?」

「……LINEしてみる……」

 とはいえ、なんてLINEしたらいいかも分からない。

 テッちゃんとのLINEトーク画面を開いたけれど、未読メッセージはひとつもなかった。つまり、この二週間テッちゃんは一度も私にLINEを送っていない。

 そう思うと、なんだか寂しくて心の奥に灰色のモヤが掛かっていくような気がした。

 フラれたんだから、仕方がないよね。今までの関係が変わることなんて覚悟の上で告白したはずなのに。