「どうしたの? 頭……怪我したの? それに金髪」

 私の包帯が巻かれた金髪頭を見ると、菜々は玄関の中に入る前にそう言って目を丸くした。

 次の日の午後、あの遺書のような手紙を菜々宛に書いていた意味が自分でも分からなくて、私の家に菜々を呼んだ。本当は菜々と会う前に髪を染めたかったけれど、怪我が完治していない今は無理だった。

 肩下十センチくらいのセミロングヘアの菜々とはサラサラで少なめという髪質も似ていて、うしろ姿は本当によく間違われていた。

「もう似ているって言われないかな」

「うーん、そうかな。じゃ、私も染めようかな」
 
 ふふっと可愛く笑うと、菜々は私が促したリビングのソファに座った。私がキッチンから氷の入ったグラス二つとコーラのペットボトルを持って、ソファの前にあるローテーブルに乗せると、菜々はその大きな瞳で私の頭を見つめた。

「それ、怪我したの? 大丈夫?」

「うん、ちょっとね」

 いつもと変わらないおっとり笑顔の菜々を見ていると、やはり彼女が手紙の意味を知っているとは思えない。

「昨日、やっとコーラス部のコンクールが終わったの。夕璃の方はこれからだよね? チアリーダーの大会」

 菜々は触れてほしくない話だと思ったのか、それ以上は怪我の話を広げず、マイペースに話しながらグラスのストローに口をつけた。

「うん。去年と同じでお盆明けに合宿があって、そこから本格的に始動するって感じかな。大会は九月だから」

「あっ、そうだったの?」

 菜々が少し驚いたような顔をした。

「ここのところ、スミレとのグループLINEも既読がつかなかったから、部活で忙しいんだと思っていた」

「……そっか……」

 つまり、私が家出をしていたらしいことさえ気がついていなかったってことかもしれない。

 でも、そうだよね。夏休みに入ってしまったら、特に約束をしていない限りはマメに連絡をし合うわけでは無い。LINEに二週間くらい音沙汰がなくても、菜々も部活で忙しくて私も忙しいだろうと思っていたなら、大して気に留めないものかもしれない。