家に帰るともう夜中の一時を回っていた。時間の感覚なんて無かったけれど、そういえば佐間川の河原で倒れた時にはもう既に真っ暗だった。

「今日は風呂はやめて寝なさい」

 お父さんに言われて、とりあえず洗面所に向かった。そして、自分がかなり丁寧にメイクをしていたことに気がついた。

 病室で鏡を見たときにはこの金髪と派手な服装に気を取られていて気がつかなかったけれど、バッチリアイメイクは長い付けまつげまでしている。

 今まで、スミレに誘われてもナチュラルメイクでさえする気が無かったのに……。

 この二週間、まるで何かに乗り移られたような人格が変わった私がいたんじゃないだろうか?

 メイク落としなんて普段は使わないけれど、試供品でもらったものがあったから、とりあえずなんとかメイクを落とすことはできた。

 そして、まだフラフラとする頭を抱えて階段を上ってようやく自分の部屋までたどり着いた。パジャマに着替えて自分のベッドに寝転ぶと、いつも一緒に寝ているテディベアのルイがいないことに気がついた。

 お父さんが六歳の頃に買ってくれたビンテージ物のテディベアで、お母さんがいなくなってしまった幼い私の心の支えだったぬいぐるみなのに……。

 ふいに気になってクローゼットを開けると、扉の近くに置いていたピンク色のスーツケースが見当たらない。洋服もチェックしてみると、この時期に着る夏服が何枚か消えているのが分かった。

 やっぱり、私は自分の意志で家を出ているんだ。
 だったら、自分が持ち出した荷物はどこにあるの……?

 私は二週間の間、どこか一定の場所にいたのだろうか? それとも、どこかを転々としながら旅行でもしていたの?

 だけど、どうして遺書なんか残そうとしていたのだろう?

 本当に死のうと思って、どこかに荷物を置いてきたということなのかな……?

 自分のことなのに何も思い出せなくて恐くなっていく。

 私が残していたというスマホはベッドの上に置かれていた。

 ロックがかかっているから、お父さんは覗いていないだろう。

 二週間分の着信とメッセがいくつも来ている。
 着信のほとんどがお父さんだったから、心配させたんだと胸の奥が痛んだ。

 だけど今の私にはなにもわからない。

 頭の痛みもあるから、メッセを確認するのはやめ、とりあえず寝てしまおうと電気を消してベッドにもぐりこんだ。朝起きてみたら、記憶が戻っていればいいのだけど。