私の心の中に言い知れない不安が湧き上がってきて、モヤモヤとした灰色の煙のようなものが胸の中を渦巻いていく。

「お父さん、私……二週間前、なにかあったの?」

「だから、それもお父さんが聞きたかったことだ。お父さんが家に帰った時には、夕璃は家にいなかったんだ。スマホも部屋に置いたまま消えていたから、ふらりと近所に出た時に拉致でもされたんじゃないかと気が気でなかったんだ」

「スマホも置いていたの……?」

 だけど、お金は持っていたのだと思う。だって、こんな格好をして持ち物も買っているのだから。唯一自分の物だと思えるのは、バッグに入っていたタオル地のハンカチだけだった。

 私は思わず見慣れない二つ折りのお財布の中を確認した。中には確かに私の銀行のキャッシュカードが入っていた。それに、高校の学生証も。つまり、これは自分の意志で持ち出しているのだろう。

 だけど、スマホは置いていっている。ということは、お父さんになにも言わずに家出をしたの……?

「警察に捜索願いは出したが、探してくれるわけではないんだな。事件性がなければ」

「警察に届けていたの?」

「そりゃ、そうだろ。娘がいなくなったんだ。それに、夕璃は家を出た日、誰かが家に来たらしいんだ。それがいつなのか時間は分からないから、その人が原因かどうかも分からないが」

「誰かって……?」

 あの日はテッちゃんと一緒に帰ったはず。覚えているのは、学校の最寄り駅前で菜々とスミレに告白がうまくいったように勘違いさせたところまでだから、どうやって家に帰ったかも覚えていないのだけど。

「テッちゃんと一緒に帰ったと思う、その日は」

「鉄平君か。お父さんは夕璃の友達の連絡先を一つも知らなくて困ったよ。スマホは残っていたが、ロックが掛かっていて中が見れなかったからな。夕璃の学校は連絡網ってものもないし」

「そっか……。仲がいい子の連絡先くらいは教えておかないとね」

 親に教える必要があるなんて思ったことも無くて、確かにお父さんに友達の連絡先なんて伝えていなかった。連絡する先さえなかったお父さんの気持ちを考えると居たたまれなくなる。

「だが、家に来たのはたぶん鉄平君じゃないんじゃないかな。客用のティーカップが流しに置いてあったんだ。だから、誰かが来たんだろうと思ったんだよ」

 確かにテッちゃんなら、お客様用のティーカップなんて使わない。それは、菜々やスミレや他の友達でも同じだった。

 あの日、誰かが来る予定なんて無かった。だとしたら、突然誰かが来たの?

 その人が私の家出の原因……なんて思うのは飛躍しすぎかもしれないけれど、関係がないとも言い切れない。何も覚えていないのだから。