チア部の秋の大会は三試合目で強豪チームと対戦して敗退した。
部活に熱中しているうちに、平和なこの生活が当たり前になって、真樹紅での二週間が遠いものになっていた。
高校から駅へ続く並木道には、チラチラと黄色い葉が舞い降りてくる。
ここの並木道は銀杏だったんだ、と、足元に積もっている落ち葉を見て思った。
この季節にしか見られない景色をスマホに納めていると、ふいにメッセージ受信音が鳴った。
「ミナ――――?」
スマホ画面にその名前を見て、胸の奥にノスタルジックな痛みを感じた。
まだそんなに時間が経ったわけではないはずだけれど、真樹紅にいた夏がやけに昔のことのように感じる。
土の上に重なる銀杏の葉を踏みしめながら、微かに震える指でメッセージを開いた。
『夕璃、ごめんね。ありがとう』
それだけだった。
近況も何もない。どこからメッセを送っているのか、今どういう状況なのか。
〝ごめんね〟は出頭したあの日、私に対して声を荒げていたことだろうか?
〝ありがとう〟はあの家から出ることができたこと? M氏の組織が壊滅したこと? それとも、私と友達になったこと?
そんな答えも、もう聞くことは出来ないんだろうと思った。
きっと、もう会えないんだろうと。
それでも、最後に送ってくれた、ほんの一言の言葉に安堵した。
ミナのために行動したことは無駄じゃなかったんだと。
他の誰が迷惑だと言ったとしても、私はミナのために動いたのだから。
彼女が今、良かったと思えたなら、それが私のベストだった。
私は再び上空から舞い降りてくる銀杏の葉にスマホを向けた。
木漏れ日に照らされた葉っぱたちは、さっきより光を増して黄金に輝いている。
まるで私の心を反映するように。
【了】