覚えているのはテッちゃんにフラれた帰り道。
あの時は制服姿で髪は黒色だったはずだけど……。失恋してヤケになってイメチェンしたのだろうか?
そうだ、あの時、菜々に似せていると言われて私はショックを受けていた。菜々から遠ざかるために……?
そんなことを考えてみても、なにも思い出せない。
「夕璃、目覚めたのか」
ふいにスライドドアが開いて、お父さんが病室に入って来た。
「警察の人が来ているが、話せるか? 誰に殴られているか、覚えていたら証言して欲しいらしい」
「えっ……? 殴られたの? 私」
そういえば、救急車を呼んでくれたであろうおばさんたちの悲鳴と一緒に、走り去る人の気配を感じたような気がした。ようやく、殴られたから頭が痛いってことなんだろう、と理解が出来た。
「目撃者の話では、走り去る若い女の姿を見たらしい。高校生から二十代前半くらいに見えたって」
「……わかんない。なにも思い出せないの。私、どうしてこんな格好をしているの?」
私の言葉にお父さんが驚いた表情を浮かべている。
「頭を殴られたショックで忘れているのか……?」
「かもしれないけど。ねえ、教えて、お父さん。何があったの? どうして私は髪を染めてこんな格好をしているの?」
「それは、お父さんの方が知りたかったんだよ、夕璃。おまえはこの二週間、どこで何をしていたんだ?」
「……えっ? 二週間……?」
「それも覚えていないのか? おまえは終業式の日の夜に家から消えていて、二週間行方不明だった。今日、いきなり佐間川で怪我をして病院に運ばれたって連絡がきて、お父さんは生きた心地がしなかったよ」
なに……? どういうこと?
終業式の日から二週間も経っているって言っているの?
つまり、私は二週間の記憶がないってこと……?