「話は、それで終わり?」
「ううん、二つ目が残ってる」
アイちゃんが真顔になって指を二本立てて、まるでピースサインのように私の前へ突き出した。
「二つ目はね、ナナちゃんはあの家の悪事というか、違法行為というか。そういうのを明るみに出そうとしているの?」
「あたしたち、そんな話を小耳に挟んだんだよね」
二人ともさっきの楽しそうな様子から一変して、ヤケに深刻な表情に切り替わっている。
「――――うん。真聖さんも同意して勧めてくれているの」
真聖さんの名前が出たことで、アイちゃんもユメノちゃんも怯んだのがわかった。
それから、二人は顔を見合わせてうなずいた。
「お願いだから、それはやめて。ナナちゃんにはそれが正義かもしれないけど、それで救われる女の子なんていないのが現状だよ」
そんな言い方をされるとカチンと頭にきてしまった。
私はこの一週間、ミナがドラッグに苦しんでいるのを見てきた。
あの家から逃げることも恐くてできないという現状も。
たった一週間でも酷いと思うことがたくさんあるのに、もっと長い期間そんな現実があったのだから。
救えるチャンスをダメにしたくない。
「それは、出来ない。正義とか、そんなことじゃない。あくまでも個人的なことだよ」
「だけど、それってナナちゃん自身のことじゃないよね?」
アイちゃんが鋭い声を出して、にらむような目で私を見た。
「私たち、あの家が失くなると困るのよ。帰る家なんてないんだから。今の職場だって楽しくてお客さんにも恵まれて満足しているの。松村さんが逮捕でもされたら、まともなところで働いて人並みの生活なんて出来ないよ。それこそ、体を売るしかなくなる」
「それ以前に、あたしたちもあそこにいる女の子たちは漏れなくドラッグ中毒だからね。一人残らず逮捕されて前科者になるんだよ」
「そんなの本当に誰かが望んでると思う?」
「関係ない人間の外側から見た偽善ってもんじゃないの?」
畳み掛けられるようなその言葉たちに、私は打ちのめされた。
私はただ、ドラッグ依存でおかしくなっていくミナを救いたい一心だった。
ミナも自分を保てずにドラッグを受け入れ、彼らの言いなりになっている生活に疲れて投げやりになっていた。
来夢君に相談したら、逃げ場があることを教えてくれた。
だけど、ただ逃げるだけでは危険すぎるということも考え、松村さんの組織ごとどうにか出来ないかと思ったのだ。
幸い、それほど大きな組織ではなくて。
それでも当事者である彼女たちの話を聞いていると、たしかに私は偽善者だと思われても仕方がない。
「性的な被害に遭っている子たちだって、それが明るみになることがどういうことか、同じ女子ならわかるでしょ?」
「センセーショナルに報道でもされてみなよ。セカンドレイプなんてもんじゃないよ」
だけど、そんな目に遭っている地獄から抜け出せるチャンスがあるんだよ。
それをダメにしていいのか、私にはわからなかった。