そのお昼に二人の女の子が私を訪ねてきた。

 松村の家にいたのはたった一日半だったけれど。
 大きな家の中で二人部屋を与えられて、十数人の女の子が住んでいると聞いていた。

 全員で何かする時間があるわけでじゃないから会っていない子もたくさんいたけど、ミナのほかに仲良くなったのは、同室だったアイちゃんととなりの部屋だったユメノちゃんだ。

 二人とも一つ上の十八歳だけど、どこか陰を感じる大人びた雰囲気を持っている。
 高校の友達にはいないタイプだったけど、真樹紅で出会った女の子たちの典型という印象だった。

 家具もほとんどない殺風景な私の部屋に入ると、アイちゃんもユメノちゃんも落ち着かない様子で差し出されたクッションの上に座った。

「コーヒーと紅茶とコーラ、なにがいい?」

 私が小さなワンドア式の冷蔵庫を開けて聞くと、二人とも「いらない」と答えた。

「すぐ帰るから」

 アイちゃんが大人っぽい笑顔を見せた。

「そう。なにか話があるの?」

「……あたし達、ナナちゃんに聞きたいことが二つあるの」

 ユメノちゃんがテーブルを挟んで前に座ったわたしの顔にグイッと顔を近づけた。
 その勢いに少し圧倒されて身をうしろへ引いた。

「な、なあに?」

「ひとつは、昨日の夜のこと。真聖君とはなにも無かったんだよね?」

「うん。ない。ベッドのある部屋には入らなかったし」

 私が答えると、ふたりとも「やぱりねぇ!」と明らかに喜んでいる。
 彼女らは真聖さんファンなのかもしれない。

「あたし達が今、あの家で暮らせているのは真聖君のお陰なんだよねぇ」

 ユメノちゃんが少し舌足らずな話し方をしながら隣にいるアイちゃんを見ると、アイちゃんも大きくうなずく。

「そう。私たちはあの家に一年近くいるけど、性的な被害には遭ってないの。真聖さんが担当してるっていうのかな」

「ひどい目に遭ってる子達には言えないけどねぇ。真聖君はお仕置きしているふりをしてるんだよね」

「私たちは元々、DJだった真聖さんのファンだったからね。ファンには優しいんだよ、あの人」

「それであたし達、ここでドラッグ飲んで松村さんがオーナーのキャバクラで働いてるけど、なんにも嫌なこと無いんだよねぇ」

 アイちゃんとユメノちゃんの言葉を聞いて、昨日の真聖さんの話を思い出す。
 きっと真聖さんは自分のせいでここに来た二人に負い目があるんだと思った。

 だから、最低限のことからは守っているのかもしれない。

「ナナちゃんもあの家に帰ってきたらいいのに。真聖さんが担当なら、怖い目に遇ったりしないよぉ」

 ユメノちゃんの言葉に首を横に振った。

「私は松村さんに目をつけられているから無理」

「ああ、そっか」

 ふたりは顔を見合わせて黙ってしまった。