彼自身は前のイスに座ると、私のスマホをテーブルの上に置いた。
「なにを撮った? 警察に出せるくらいのネタが集まったのか?」
その鋭い目に恐怖を感じて、何も言えずに震えあがる。
私に手を出す気がないということは、この人の目的は違うの?
だったら、私は殺されて海に沈められてしまうのだろうか――――?
「怖がらなくていい」
大きくため息を吐いたけど、その表情は硬いままだ。
「なにもしないから、安心しろよ。母さんと来夢からキミのことは頼まれているんだ」
「そう……なの?」
二人にだって黙って出て来たのに。
私はただ、薬漬けにされて苦しんでいるミナを助けたかった。だけど、ミナ自身は恐がって、それでも命を張って撮った動画も証拠になるか微妙なものだった。
だから、自ら松村のいる場所をうろついて潜入することに成功した。
そして、動画や音声を撮って証拠を集めていたのに見つかって……。
「使えそうなら、警察に持って行くんだ」
「えっ?」
「一人だと危険だから、来夢と一緒に行け。話しておくから」
「だって、そうなったら真聖さんだって――」
「俺はここの幹部で、薬の売買の場所でもあるクラブハウスで人気DJとして集客している。俺のファンの子たちにドラッグを飲ませて、彼女たちを金のなる木にしているんだ。捕まれば罪には問われるだろう。だけど、俺は今の生活に嫌気がさしてんだ」
ここから逃げ出したら殺される、そう聞いている。
裸や襲われている場面を撮られて辱めを受けた子たちなら、口を割ることは無いと逃げても放置されるらしい。
だけどそうではなく、消されたかもしれないという噂のある子も複数いると聞いた。
そして、それは男だろうが幹部だろうが、息子だろうが妻だろうが同じなのかもしれない。そんなことをその時に思った。
ママや来夢君も、この現状を知っていても、それを辞めさせることは出来ないと言っていた。
この状況を楽しめない限り、ここは松村以外には地獄ではないかと思えた。
結局、その日はその部屋で夜を過ごし、真聖さんは違う部屋でただパソコンに向かって仕事をしていて、なにごともないまま朝を迎えた。
夜が明けた早い時間に、真聖さんがShin-Raiに送ってくれた。