ケラケラとおかしそうに笑い詩音さんを見ながら、ミナが私の腕を引いて外へ出ようとした時、誰かが前に立ちはだかり「よぉ」という低い男の声がした。
飛び上がりそうになって見上げると、来夢さんだった。ニヤリと笑って私の頭に片手を乗せると、「久しぶりっすね」と言いながら真っすぐ詩音さんの方へ歩み寄った。
「誰? 夕璃の知り合い?」
「この人が来夢さんだけど……」
急に現れた来夢さんを見て、詩音さんが無表情になった。
「――――来夢君?」
「ナナちゃんに呼ばれたんですよ。親父の家に囲われちまった子が困っているって」
「……ふうん。それで?」
「逃がしてやる手伝いをしようと思ったんだけど、その必要はねえかなって思っていたとこ」
えっ? なに? どういうこと――――?
背中に冷たいものが走る。その必要が無いって、裏切られたの?
思わずミナを見ると、ミナも顔面蒼白になってフリーズしている。
詩音さんも味方が来たと察知したようで、さっきまでの警戒心を解いてニヤッと笑った。
「それは懸命ね。普段は関わりが薄くても、あなたの血の繋がった父親ですものね、松村さんは」
「まあね。だからこそ、こういう姿は複雑なんすけどね」
来夢さんがスマホを操作しながら、詩音さんの目の前に出した。
それを見た詩音さんの表情が再び無になり、目を見開いて驚いたと思ったら、どんどん血の気が引いて真っ青になった。
「ミーナ! やっぱりあんたが‼」
立ち上がった詩音さんがいきなりミナに掴みかかろうとして、来夢さんに止められた。
周囲の客がジロジロと見ているけど、詩音さんは我を忘れたように真っ赤になって来夢さんに押さえられながら「ミーナ!」と叫んでいる。
わけも分からず硬直しているミナと私に、来夢さんがスマホを見せた。ニュース速報のようで、大きな一戸建ての家から頭から上着などを被った人たちが大勢出てきている。
そのほとんどが若い女の子で、同時に、M氏の顔写真も出てきて『主犯の松村敏和逮捕』とテロップが出た。
「これって――――」
「ついさっきニュースが入った。昨日、ナナちゃんと別れたあと、無事に警察にSDカードを提出できたんだ」
それを聞いて、詩音さんが「ナナちゃんが持っているんじゃなかったの……?」と呟いた。
「ナナちゃんが持っているって聞いたから、外に出さないように思いっきり殴ってやったのに――――」
その言葉に血の気が引いた。