「今、お友達と一緒?」

 席へ向かおうとする私を詩音さんが呼び止めた。

「えっ? うん。でも、少し外に出ているから、荷物番しながら待っているの」

「少し一緒にしゃべらない? 一緒に働いたことが無くてもShin-Raiの仲間に会えるなんて嬉しいわ」

 詩音さんが私の席についてきた。
 この前は素敵なお姉さんに見えたけど、なんだか今日は強引な印象を与える。

「友達が戻るまでなら……」

 少しでも自分の記憶が戻るきっかけになればという気持ちもあり、詩音さんが席に着くことを許容した。

「ママは元気? 会いたいなぁ」

「会えば喜ぶと思う。詩音さんと会ったって言ったら、真樹紅に来ることがあるの? って驚いていたから」

「ふふっ。そっかぁ。会いたいんだけどね。あの辺りってガラが悪いから。あんまり歩きたくないの」

 それは危険だからという意味なのか、モデルとしてのイメージを守るためなのか。
 どちらにしても、仕方がないことだろうとは思う。

 私だって、危険なあの場所にはもう行けないんだから。

「何してるの?」

 帰ってきたミナが怒ったような驚いたような表情をした。

「おかえり。偶然会って、詩音さんが少し話したいって言うから……」

 なんだか不機嫌そうなミナに困惑しながら答えたけど、彼女の視線は詩音さんに向いている。

「やだ、ミーナ。そんなおっかない顔しないでよ」

 詩音さんは苦笑いしながらも、どこかからかっているような態度で楽しそうに見える。
 まるで知り合いのような口調だ。

「詩音さんとミナって知り合いだったの?」

「詩音さん? なに?」

 ミナが私と詩音さんを交互に見る。私は「なに?」の意味がよく分からず、詩音さんと二人の会話があるのかと黙って二人を見た。
 だけど、誰も何も発することなく、そのまま沈黙が続いた。

「まあ、座りなさいよ、ミーナ」

 その沈黙を破り、余裕を持った含み笑いで詩音さんが上目遣いにミナを見る。
 警戒した表情を見せながら、ミナが私の横に腰を下ろした。

「私はただ、Shin-Raiの仲間としてナナちゃんに親近感を持っているだけよ」

「あたしのことつけてきただけのくせに、なに言ってんの?」

 まるで親の仇のような鋭い目つきでミナが詩音さんを睨んでいる。

「へーえ、ミーナは私につけられるようなことしているの?」

 なんだかとっても意地悪な言い方をする詩音さんに、ミナの顔が青くなっていくのがわかる。

「出よう。ヤバいかもしれない」
 
 ミナが私に囁きながら立ち上がった。鬼気迫るものを感じて私も立ち上がった。

「な、なに?」

「手遅れよぉ。このお店に入った時に連絡しているから。そろそろ、誰か来るんじゃないかしらぁ」

 なに? 詩音さんって、ミナの逃げたい人たちの――――つまり、M氏の関係者なの……?