来夢さんを待っている間、急に思い出したように、ミナがしきりにスマホで何か調べ出した。

「あたし、急いでいてお金をおろしてきてないの。ちょっとATMに行ってくる。ちょっと遠そうだから、来夢さんが来ちゃったら申し訳ないけど」

「そう。じゃ、荷物置いて行くよね? 見ていてあげるよ」

 私の言葉に、驚いた表情でミナが顔を上げてこちらを見た。

「あっ、もちろん貴重品は持って行ってね」

「そりゃ、持って行くけど……。じゃ、こっちは置いていくね」

 ミナが大きめのリュックを指差して立ち上がった。
 出て行くことがバレないよう、スーツケースは持ってこなかったんだろう。

 華奢なミナのうしろ姿はどこか儚げに見えた。

 あの家の男たちになんて力で勝つはずもないのに。
 あの小さな身体で精一杯自分を守ってきたんだ、と思うとまた胸の奥が握りつぶされるように痛む。

 あの生々しい首の傷痕だって、自分の身を守れた勲章みたいなものだ。

 ミナが自動ドアの向こうへ消えるまで、私はずっとその姿を追い続けていた。

 一人で手持無沙汰になった私は、席を立ってドリンクバーのところへ行った。

「あら、ナナちゃん。偶然ね、こんなところで会うなんて」

 声をかけられて振り向くと、黒髪をポニーテールにした詩音さんが立っていた。
 高めのヒールが付いたサンダルを履く彼女はこの前よりも背が高く、こんな都心から外れたファミレスでは変に目立ってしまうほどの美貌を持っている。

「なんでこんなところに詩音さんが……?」

「フフッ、お互い様じゃないの。ナナちゃんがここにいてびっくりしたわ」

 いや、庶民的な私がここにいるのは別に不思議じゃないと思うけど。
 こんな普通の住宅地にあるファミレスにいる詩音さんはハッキリ言って浮いている。

 みんなチラチラと詩音さんを見ているから、さすがモデルさんだなぁと思った。

「詩音さんは誰かと来ているの?」

 用事がないとこんなところへ来ないだろうと思えた。

「今は一人だけど、ここに来る前に用があってね。ナナちゃんはこの辺りに住んでいるの?」

「ううん、人と会っていて……」

 そういえば、詩音さんは前にミナとは付き合わない方がいいと言っていたと思い出した。

 詩音さんは見た目の印象でミナを薬中の妄想癖がある子だと判断したんだろう、と思うと胸の奥がモヤモヤした。

 もちろん、ドラッグ漬けになっているのは事実で、ラリっている姿を見てしまったら近づきたくないと思うのかもしれないけれど。

「じゃ、また」

 また、と言っても次があるとは思えなかったけど、私は詩音さんに笑顔を向けた。