二回目のコールで来夢さんが応答した。
『公衆電話って、誰?』
どこか怪しむような口調で言われ、来夢さんの睨むような鋭い目がこちらを向いているような気がしてしまう。
「私、ナナです」
自分でナナと名乗るなんて違和感がありすぎるけど、夕璃と言ったところで通じない気がした。
『……なにかあったんか?』
声を潜めて、賑やかなところから静かなところへ移動しているのがわかる。
「ごめんなさい、忙しかった?」
『別に。大学のやつらと一緒にいるだけ』
えっ? 大学生――――?
たしかに、それくらいの年齢かもしれないけど。なんとなく、夜の商売の手伝いでもしているような気がしていた。
勝手な印象だ、と心の中で苦笑した。
『なんだよ、緊急事態か?』
「う、うん。あの、M氏の家にいた子が逃げてきたの。私がずっと逃げるように言ってた子で。その時の私はなにか対策が合ったのかもしれないけど、記憶が無くなったわたしにはどうしたら良いか分からなくて……」
『そうか、良かった』
嬉しそうな優しい声が耳に響いた。
『前にも相談受けて、俺が助けられるって言ってたんだ。だから、ナナちゃんもしきりに逃げるように言っていたんだろ。ヤバい組織からかくまってくれるシェルターがあるんだ。地方になるけどさ。ドラッグを抜くのも手伝ってくれる』
「そうなの? 紹介してくれる?」
『おう。ただ、キミらは動かねえ方がいいな。俺がそっち行くから、今いる場所教えて』
「わかった」
場所を伝えて電話を切ると不安げにこちらを見ているミナと目が合った。
「地方にあるシェルターを紹介してくれるって。薬物を抜く手伝いもしてくれるところなんだって」
「――――そうなの? 本当に? 地方ってどこ?」
「詳しくは聞いてない。来夢さん、三十分くらいで来れるみたい。その時にミナが直接話したらいいよ」
「……うん。ありがと」
ミナは一応お礼は言ったけど、やっぱり不安げな表情は崩さなかった。
そんなミナを見ていると、私も不安が頭を過ぎる。来夢さんが酷い人で、ミナをどこかおかしな組織に引き渡そうとしていたらどうしよう――――。
そしてまた我に返る。
なんてことを考えているんだろう。来夢さんにはこの二週間、私はきっと守って貰っていたはず。
それは、昨日のあの態度でわかる。最後だって危険がないように見張って送ってくれていた。
発信機や盗聴器のことも教えてくれた。
なのに信用がしきれないのは、私の記憶がないからだ。
この二週間のこと、もっとなにか思い出せたらいいのに――――。