救急車の中でのおぼろげな記憶の次に気がついた時には、私は病院のベッドの上にいた。横には真剣な表情で点滴をいじっている目の大きな若い看護師さんがいて、私が手を動かすと目覚めたことに気がついた。
「井上さん、起きましたか? 今、お父さんが先生とお話ししていて、もうすぐ病室に来るからね」
優しく微笑むと、看護師さんは病室から出て行ってしまった。
今の状況をよく把握できないけれど、起き上がると後頭部に激痛が走る。
何が起こったのか分からない。だけど、頭をケガして病院に運ばれたんだということは理解ができた。
ふいに顔にかかった髪を見て、目の錯覚かと確認したくて鏡を探した。そして、ベッドの横の壁に掛かっている鏡をのぞき込んで驚愕した。
巻かれた包帯の下から顔を出している、肩より少し長いセミロングは明るい金髪に変わっていた。
「えっ……? なにこれ……」
思わず声に出してつぶやいた。
だって、今まで髪を染めたことなんて無い。学校の規定で染めることは禁止ということもあるけれど、元々地毛が少し明るい茶色系だから、染めたいと思ったことも無かった。
よりにもよって金髪なんて――こんな派手に染めたいと思ったことなんて無い。
まるで自分ではないような派手な頭にしばらく呆然としてしまった。
そして、着ている服も自分の物ではないと気がつく。ワンピースと薄手の七分袖パーカーという女子っぽい組み合わせではあるけれど、なんというか、普段着にしては派手目なものという感じがする。
ワンピースは上半身が黒色で袖部分がレースになっていて襟元には派手なビーズやスパンコールがあしらわれている。ふんわりと広がっているスカートは淡いピンク地に白い大きな花柄で、ウエスト部分には大きな花のチャームをアクセントにビーズやスパンコールが並んでいる。
パーティードレスよりは普段着っぽいけれど、この辺りの高校生が着るような服よりかなりオシャレ度が高い。だけど、この金髪に似合うのはこんな感じの服装かもしれない。
都心に近い隣県ではあるけれど、郊外の穏やかな住宅地であるこの辺りでは、こんな格好をしていると悪目立ちしかしない。そう、都内の派手な地域なら目立たないのかもしれないけれど……。
そして、そのワンピースの上に羽織っている白い薄手のパーカーはシンプルなもので、腰のあたりまで丈があるから派手なワンピを上手に隠しているようだった。
「どうしてこんな格好をしているんだろう……?」
思わず声がもれてしまったけれど、いつどこでこの髪を染めてこんな服を買ったのか、まるで思い出せない。