トウマ先生side
今頃、美雨さん……ううん、美雨は私がどこに消えてしまったのか、不思議に思っているかな。
本人に直接教えてあげることはできないのが、悔しいけれど。きっと、美雨が大人になったとき分かると思うから。
――私は、未来から来た、藤間美雨。
美雨は分からなかったよね。結婚して姓も変わっているから、私だって気がつかなかったと思う。
あれから高校を卒業して、医学の専門学校に行って、医者になるという夢を叶えた私。
晴人くんも心理カウンセラーになることができて、私たちは五年前、二十歳のときに結婚をし、仕事に専念していた。
そのときに思いついたんだ。
過去に戻って、私を救いたい。私を――綾瀬美雨を助けてあげたい、って。
神様からのお詫びなのか分からないけれど、私は過去に戻ることに成功した。でももちろん、美雨は私の正体を分かっていないようだった。
晴人くんにも気がつかれなくて良かったぁと心から安心していた。
美雨の涙を見て思った。辛い気持ちを持っている人をいざ前にすると、私の心まで苦しくなることに。
私が相談に乗っても、美雨は心を閉ざしているようだった。誰にも言いたくない……と。
私が一番してほしかったこと。それは、何も言葉にしなくていいから、そばにいること。
美雨もそうだった。何も言わずにただ隣にいてくれれば、それでいいんだって。手を差し伸べてくれるひとがいれば、幸せだ……って。
藤間美雨。やっぱり何度見ても、素敵な響きな気がする。
ふふっ、きっと過去の“私”もそう思っていたのだろう。綾瀬美雨は、やっぱり綾瀬美雨だから。
藤間晴人のことが大嫌いで、大好き。変な話だと思うけれど、その事実は変わらないもの。
そんなことを考えながら、私は“あの病院”へと向かう。
私の仕事先。これからもずっと医者を続けていけたらいいな、なんて思っている。
「トウマ先生っ」
「あっ、結月さん。おはよう」
「おはようございます!」
高校一年生の、田中結月さん。結月さんは、私の大切な一人の患者様。
結月さんは元気で明るくて、ひまわりのような子。小さい頃から心臓病を患っていて、この前手術をした。手術は成功し、結月さんの体は元気になった。
一人の命が救われたと思うと、私は胸がいっぱいになる。
「そっか、結月さん、今日退院日だもんね」
「はい、トウマ先生と話せなくなるのは寂しいですけど……。今まで本当にお世話になりました!」
「また遊びにきてね。待ってるから」
そう言うと、結月さんは嬉しそうに笑った。
結月さんが笑うと、周りも笑顔になって、気持ちのよい気分になる。
手術が成功してから、更に明るくなったような気がして、嬉しい。
「今日、家族と私の退院パーティーやるんです。すごく楽しみなの」
「そうなんだ、それは嬉しいね。結月さんって一人っ子?」
「ううん、お姉ちゃんがいます。お姉ちゃんとはまぁまぁ年が離れてるけど、優しくて天然で、大好き」
結月さん、お姉さんがいるんだ。
私は妹しかいないから、上の姉弟がいるってどういう気持ちか分からないけれど。
結月さんの嬉しそうな表情を見れば、お姉さんのことを好きなのがよく伝わってくる。
「トウマ先生、何歳ですか?」
「うーん……本当は秘密だけど、結月さんの退院祝いに、特別に教えちゃおうかな。二十五だよ」
「えっ! 風穂お姉ちゃんと同い年!」
かほ、お姉ちゃん?
――田中風穂ちゃん。私の高校時代、とても仲が良かった親友。
田中結月さん。そうか、風穂ちゃんの妹さんだったんだね……。
思わず笑みがこぼれる。
「お姉ちゃんと……仲良くね」
「はい! ありがとうございました、トウマ先生っ」
「お大事にしてください」
結月さんは、笑顔を浮かべながら、退院していった。
雪花ちゃんと風穂ちゃん、元気にしてるかな。そのうち連絡してみよう。
案外世界は狭いんだね。こんな近くに、知り合いの子がいたなんて。
――大丈夫だよ。あなたも、幸せになれる。
今頃、美雨さん……ううん、美雨は私がどこに消えてしまったのか、不思議に思っているかな。
本人に直接教えてあげることはできないのが、悔しいけれど。きっと、美雨が大人になったとき分かると思うから。
――私は、未来から来た、藤間美雨。
美雨は分からなかったよね。結婚して姓も変わっているから、私だって気がつかなかったと思う。
あれから高校を卒業して、医学の専門学校に行って、医者になるという夢を叶えた私。
晴人くんも心理カウンセラーになることができて、私たちは五年前、二十歳のときに結婚をし、仕事に専念していた。
そのときに思いついたんだ。
過去に戻って、私を救いたい。私を――綾瀬美雨を助けてあげたい、って。
神様からのお詫びなのか分からないけれど、私は過去に戻ることに成功した。でももちろん、美雨は私の正体を分かっていないようだった。
晴人くんにも気がつかれなくて良かったぁと心から安心していた。
美雨の涙を見て思った。辛い気持ちを持っている人をいざ前にすると、私の心まで苦しくなることに。
私が相談に乗っても、美雨は心を閉ざしているようだった。誰にも言いたくない……と。
私が一番してほしかったこと。それは、何も言葉にしなくていいから、そばにいること。
美雨もそうだった。何も言わずにただ隣にいてくれれば、それでいいんだって。手を差し伸べてくれるひとがいれば、幸せだ……って。
藤間美雨。やっぱり何度見ても、素敵な響きな気がする。
ふふっ、きっと過去の“私”もそう思っていたのだろう。綾瀬美雨は、やっぱり綾瀬美雨だから。
藤間晴人のことが大嫌いで、大好き。変な話だと思うけれど、その事実は変わらないもの。
そんなことを考えながら、私は“あの病院”へと向かう。
私の仕事先。これからもずっと医者を続けていけたらいいな、なんて思っている。
「トウマ先生っ」
「あっ、結月さん。おはよう」
「おはようございます!」
高校一年生の、田中結月さん。結月さんは、私の大切な一人の患者様。
結月さんは元気で明るくて、ひまわりのような子。小さい頃から心臓病を患っていて、この前手術をした。手術は成功し、結月さんの体は元気になった。
一人の命が救われたと思うと、私は胸がいっぱいになる。
「そっか、結月さん、今日退院日だもんね」
「はい、トウマ先生と話せなくなるのは寂しいですけど……。今まで本当にお世話になりました!」
「また遊びにきてね。待ってるから」
そう言うと、結月さんは嬉しそうに笑った。
結月さんが笑うと、周りも笑顔になって、気持ちのよい気分になる。
手術が成功してから、更に明るくなったような気がして、嬉しい。
「今日、家族と私の退院パーティーやるんです。すごく楽しみなの」
「そうなんだ、それは嬉しいね。結月さんって一人っ子?」
「ううん、お姉ちゃんがいます。お姉ちゃんとはまぁまぁ年が離れてるけど、優しくて天然で、大好き」
結月さん、お姉さんがいるんだ。
私は妹しかいないから、上の姉弟がいるってどういう気持ちか分からないけれど。
結月さんの嬉しそうな表情を見れば、お姉さんのことを好きなのがよく伝わってくる。
「トウマ先生、何歳ですか?」
「うーん……本当は秘密だけど、結月さんの退院祝いに、特別に教えちゃおうかな。二十五だよ」
「えっ! 風穂お姉ちゃんと同い年!」
かほ、お姉ちゃん?
――田中風穂ちゃん。私の高校時代、とても仲が良かった親友。
田中結月さん。そうか、風穂ちゃんの妹さんだったんだね……。
思わず笑みがこぼれる。
「お姉ちゃんと……仲良くね」
「はい! ありがとうございました、トウマ先生っ」
「お大事にしてください」
結月さんは、笑顔を浮かべながら、退院していった。
雪花ちゃんと風穂ちゃん、元気にしてるかな。そのうち連絡してみよう。
案外世界は狭いんだね。こんな近くに、知り合いの子がいたなんて。
――大丈夫だよ。あなたも、幸せになれる。