日曜日、時刻は午後一時。
いつもより念入りにメイクやヘアセットをしている。
メイクはピンクで可愛い感じにしようかな。
髪は巻いていこうかな。
――今日は藤間くんとの約束のデートの日。デートの朝ってものすごく楽しいんだなぁ、と思う。
『おはよう、綾瀬』
『おはよ、藤間くん』
『今日はよろしく』
『こちらこそよろしくね!』
先ほどやっていた藤間くんとのメッセージのやりとりを見て、私はニヤニヤが止まらなかった。
でもよくよく考えてみて、気分が落ち込む。今日のデートは楽しみだけど、藤間くんとのお付き合いが決まるから。
だから不安と恐怖もある。だけど、一歩踏み出さないと始まらないよね。
「お母さん、今日出かけてもいいかな?」
「あら、もちろんいいけど、今日はいつも以上に可愛いね。そんなにヘアメイク気合い入れて……どこに行くの?」
「うーん、まだ決めてないよ。夜には戻るから」
「ふふ、もしかしてデート?」
「……ううん、違うよ!」
誤魔化すようにして私は急いで支度をする。
だけどお母さんは、ニヤニヤしながら料理をしている。
――……たぶん、お母さんにはバレちゃったな。
「美空ちゃんとお父さんは?」
「美空は友達と公園で遊ぶって言って出かけたよ。お父さんは仕事休みみたいで、ぐっすり」
「そっか」
美空ちゃんとお父さんに知られなくて良かった。二人ともしつこく聞いてきそうだし、お父さんは心配しそうだし……。
なんて考えながら履き慣れていないヒールがあるサンダルを履いて、お母さんに挨拶する。
「お母さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
玄関を出ると、藤間くんが私の家の前で待っていた。
藤間くんは黒いパーカー、鎖のようなものが着いたキャップ、白のスニーカーを履いたモノクロスタイルで、とてもおしゃれ。
もちろん普段もかっこいいけれど、私服の藤間くんは更にかっこよく見える。
「あ、綾瀬」
「あっ、と、藤間くん……! ま、待たせた?」
「ううん、いま来たところでインターホン鳴らそうとしてた」
ヘアメイクは完璧なほどセットしたから大丈夫だと思っていたけれど、いざ藤間くんを見ると自信をなくしてしまう。
こんなにかっこいい子の隣を歩くなんて、できるのかな……。
「さ、行こ」
笑って言う藤間くんのすぐそばに行き、隣じゃなくて少し後ろを歩いていく。
今更だけど、今日のデートは藤間くんが誘ってくれたから、リードしてくれるって考えていいのだろうか。
もし私がデートプランを考えなければいけなかったとしたらどうしよう。私、何も考えてきてない。
「綾瀬、どこ行きたい?」
「へっ!?」
「水族館とか遊園地とか色々あるじゃん。俺、女の子が行きたいところ考えたけど分からなくてさ。ごめん、俺が誘ったのに」
――やっぱり私が考えてきたほうが良かったんだ。
どうしよう、と藤間くんに悟られないように、頭のなかで一生懸命考える。
デートといえば、イルミネーションとか、そういうロマンチックなところを想像していたけれど……。
「え、映画とか?」
精一杯考えた結果、映画しか思いつかなかった。
水族館や遊園地も良かったけれど、それはカップルとして行きたかったから。
藤間くんの表情が少しだけ明るくなった。
「あー、映画か。観たいのあるの?」
「み、観たいのは特にないけど……藤間くんは?」
藤間くんはスマートフォンを取り出して、一つの広告を見せてきた。藤間くんが観たい映画ってどういうものだろう、想像がつかない。
……私は見て絶望した。
それは人間がゾンビ化するという、今超話題のホラー映画だった。
「どう? 綾瀬、ホラー映画苦手?」
「えっと……いや、苦手じゃないよ……」
「本当? 無理してない?」
「う、うん、無理してないよ。むしろ大好きかも!?」
――なんで私、大好きなんて嘘吐いてしまったのだろう。
やっぱり、私は嘘を吐くことに慣れてしまっている気がする。どうしてかは分からないけれど、記憶を失う前のことが関係しているんだよね。
記憶のこと、考えるのはやめよう。今は藤間くんとのデートを楽しまないと。
ホラー映画は苦手だけれど、藤間くんと一緒なら大丈夫だろうと思い、シアターへ入った。
「藤間くんいいの? チケット買ってもらっちゃって」
「うん全然いいよ、だって俺が誘ったんだし」
「ありがとう」
藤間くんは映画のチケットを奢ってくれた。なんて優しいんだろう。私は一段とまた好きになった。
スナックや飲み物などは、各自買うことにした。私はキャラメル味のポップコーン。怖くて食べている暇があるか分からないけれど。
映画が始まってから約三十分経ったところで、私は既に怖くてたまらなくなっていた。
――なにこれ、リアルすぎる。
あと一時間あるなんて信じられない。でも自分で「観る」と答えたんだし、耐えないと。
「綾瀬、大丈夫? 手、震えてる」
小声で藤間くんが話しかけてきた。
自分では気がつかなかったけれど、手がブルブルと震えていた。
「……本当はちょっと、ううん、かなり怖いの」
「無理しなくていいって言ったのに」
「ごめん、なさい」
最悪だ。藤間くんは私が嘘を吐いていたことに、怒っているのかな。
やっぱり嘘なんか吐かなければ良かったと心から思った。
だけどその直後、藤間くんは私の手をぎゅっと握ってくれた。
「えっ……!?」
「これで安心する?」
何が起きているのか理解できず、私はとりあえず頷いた。
――藤間くんといま、手を繋いでいるんだ。
そのぬくもりはあたたかくて、本当に安心できる。恥ずかしくて藤間くんの顔を見ることができないけれど、すごく嬉しかった。
いつもより念入りにメイクやヘアセットをしている。
メイクはピンクで可愛い感じにしようかな。
髪は巻いていこうかな。
――今日は藤間くんとの約束のデートの日。デートの朝ってものすごく楽しいんだなぁ、と思う。
『おはよう、綾瀬』
『おはよ、藤間くん』
『今日はよろしく』
『こちらこそよろしくね!』
先ほどやっていた藤間くんとのメッセージのやりとりを見て、私はニヤニヤが止まらなかった。
でもよくよく考えてみて、気分が落ち込む。今日のデートは楽しみだけど、藤間くんとのお付き合いが決まるから。
だから不安と恐怖もある。だけど、一歩踏み出さないと始まらないよね。
「お母さん、今日出かけてもいいかな?」
「あら、もちろんいいけど、今日はいつも以上に可愛いね。そんなにヘアメイク気合い入れて……どこに行くの?」
「うーん、まだ決めてないよ。夜には戻るから」
「ふふ、もしかしてデート?」
「……ううん、違うよ!」
誤魔化すようにして私は急いで支度をする。
だけどお母さんは、ニヤニヤしながら料理をしている。
――……たぶん、お母さんにはバレちゃったな。
「美空ちゃんとお父さんは?」
「美空は友達と公園で遊ぶって言って出かけたよ。お父さんは仕事休みみたいで、ぐっすり」
「そっか」
美空ちゃんとお父さんに知られなくて良かった。二人ともしつこく聞いてきそうだし、お父さんは心配しそうだし……。
なんて考えながら履き慣れていないヒールがあるサンダルを履いて、お母さんに挨拶する。
「お母さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
玄関を出ると、藤間くんが私の家の前で待っていた。
藤間くんは黒いパーカー、鎖のようなものが着いたキャップ、白のスニーカーを履いたモノクロスタイルで、とてもおしゃれ。
もちろん普段もかっこいいけれど、私服の藤間くんは更にかっこよく見える。
「あ、綾瀬」
「あっ、と、藤間くん……! ま、待たせた?」
「ううん、いま来たところでインターホン鳴らそうとしてた」
ヘアメイクは完璧なほどセットしたから大丈夫だと思っていたけれど、いざ藤間くんを見ると自信をなくしてしまう。
こんなにかっこいい子の隣を歩くなんて、できるのかな……。
「さ、行こ」
笑って言う藤間くんのすぐそばに行き、隣じゃなくて少し後ろを歩いていく。
今更だけど、今日のデートは藤間くんが誘ってくれたから、リードしてくれるって考えていいのだろうか。
もし私がデートプランを考えなければいけなかったとしたらどうしよう。私、何も考えてきてない。
「綾瀬、どこ行きたい?」
「へっ!?」
「水族館とか遊園地とか色々あるじゃん。俺、女の子が行きたいところ考えたけど分からなくてさ。ごめん、俺が誘ったのに」
――やっぱり私が考えてきたほうが良かったんだ。
どうしよう、と藤間くんに悟られないように、頭のなかで一生懸命考える。
デートといえば、イルミネーションとか、そういうロマンチックなところを想像していたけれど……。
「え、映画とか?」
精一杯考えた結果、映画しか思いつかなかった。
水族館や遊園地も良かったけれど、それはカップルとして行きたかったから。
藤間くんの表情が少しだけ明るくなった。
「あー、映画か。観たいのあるの?」
「み、観たいのは特にないけど……藤間くんは?」
藤間くんはスマートフォンを取り出して、一つの広告を見せてきた。藤間くんが観たい映画ってどういうものだろう、想像がつかない。
……私は見て絶望した。
それは人間がゾンビ化するという、今超話題のホラー映画だった。
「どう? 綾瀬、ホラー映画苦手?」
「えっと……いや、苦手じゃないよ……」
「本当? 無理してない?」
「う、うん、無理してないよ。むしろ大好きかも!?」
――なんで私、大好きなんて嘘吐いてしまったのだろう。
やっぱり、私は嘘を吐くことに慣れてしまっている気がする。どうしてかは分からないけれど、記憶を失う前のことが関係しているんだよね。
記憶のこと、考えるのはやめよう。今は藤間くんとのデートを楽しまないと。
ホラー映画は苦手だけれど、藤間くんと一緒なら大丈夫だろうと思い、シアターへ入った。
「藤間くんいいの? チケット買ってもらっちゃって」
「うん全然いいよ、だって俺が誘ったんだし」
「ありがとう」
藤間くんは映画のチケットを奢ってくれた。なんて優しいんだろう。私は一段とまた好きになった。
スナックや飲み物などは、各自買うことにした。私はキャラメル味のポップコーン。怖くて食べている暇があるか分からないけれど。
映画が始まってから約三十分経ったところで、私は既に怖くてたまらなくなっていた。
――なにこれ、リアルすぎる。
あと一時間あるなんて信じられない。でも自分で「観る」と答えたんだし、耐えないと。
「綾瀬、大丈夫? 手、震えてる」
小声で藤間くんが話しかけてきた。
自分では気がつかなかったけれど、手がブルブルと震えていた。
「……本当はちょっと、ううん、かなり怖いの」
「無理しなくていいって言ったのに」
「ごめん、なさい」
最悪だ。藤間くんは私が嘘を吐いていたことに、怒っているのかな。
やっぱり嘘なんか吐かなければ良かったと心から思った。
だけどその直後、藤間くんは私の手をぎゅっと握ってくれた。
「えっ……!?」
「これで安心する?」
何が起きているのか理解できず、私はとりあえず頷いた。
――藤間くんといま、手を繋いでいるんだ。
そのぬくもりはあたたかくて、本当に安心できる。恥ずかしくて藤間くんの顔を見ることができないけれど、すごく嬉しかった。