「おにーちゃん!ことりさんいーっぱいとんでるよ!」
「ほんとだ、ことりさんだな」
小さな手で俺の手を必死に掴む妹ーー芽衣が、真っ青な空を指さした。
「なんびきいるかなぁ?」
「かぞえられるかー?」
「うんっ!えーとねぇーー……」
土曜日。
俺は、保育園が休みで暇だとぐずる芽衣を公園に連れ出していた。
「ふー……」
いつもこうやって芽衣と一緒に遊んでいるのだが、こんなところを同じ学校の連中に見られたらたまったもんじゃないな。
俺は、近くのベンチに腰を下ろしすと、芽衣の姿を視界の中心にとらえた。
どうやら、鳥を数えることに飽きてしまったらしい。カラフルなブランコに向かって走っていく芽衣の背中をぼんやりと眺めながら、昨日の出来事を思い出していた。
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『見捨てるとか見捨てないとか……そんな言葉聞き飽きた』
もう、何の感情も湧いてこない。
胡散臭いことを言うくせに、結局最後は全員俺のことを見放すんだから。
『そうか、でも俺は見捨てない』
『っ、だからーー』
『文句があるならまたあの部屋まで言いに来い』
『は……え、ちょ……!』
『じゃーな、千羽』
淡々と言うだけ言って、そいつは傘を開いてスタスタと学校を出ていく。
『なんなんだよ、あいつ……』
俺は、いつのまにかバッグの肩紐にぶら下がっていた折り畳み傘を見つめてボソリと呟いた。
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あの部屋、か……。
たしか一階の廊下の端っこにあったような、なかったような。
あの時はピンチに焦っていた時に飛び込んだ部屋だったから、場所もぼんやりだ。
「はー……」
俺は、特大のため息をついてベンチの背もたれにもたれかかる。
月曜、行ってみるか?おそらく、あの折り畳み傘だってアイツのだろうし……。
「おにーちゃん、いっしょにシーソーしよ!」
キー、ガコン。キー、ガコン。キー、ガコン。
「おにーちゃんもっとたいじゅうおもくして!」
「はいはい」
でも、お礼を言って返したとして、そのあとはどうすればいいんだ?
そのまま出ていけばいいのか。何か話題を振るべきか。
あぁ、もう、なんなんだよ。
小さいことでこんなにウジウジ悩むなんて、全く俺らしくないじゃないか。
シーソーに揺られながらもんもんと考えている時だった。
「あ、千羽くんだ」
どこかで聞いたことのある声が、背後から聞こえた。