「いでっ……」
無防備な額に、不意打ちのデコピンを喰らう。
「2年に不良がいるとは聞いてたけど、まさかこんなにだったなんてな」
はっ、と少し楽しそうに笑ったソイツは、さっきまで座っていた椅子に再び腰掛けた。
後ろで縛った長めの髪は黒く、真面目そうな印象。それに、どうやら先生からの信頼を持っている。
俺とは正反対じゃねーか、と思っていると、ソイツは後れ毛を耳にかけた。
「……」
「ま、別にオマエがどうしようと俺たちには関係ない。でも、いつか後悔すんじゃねーの」
椅子に座ったまま首を傾げ、何を考えているかもわからないような表情で俺を見上げたそいつの耳には、いくつものピアスの穴があった。
なんだよ、コイツも同じことを言うのかよ。
俺のことを見てるふりをして、実は見ていない、説教だけしておけばいいと思っているアイツらと同じことを。
「これに懲りたなら、明日からはーー……」
「うるせえ」
気づけば、ペラペラと喋り続けるソイツの声を遮っていた。
笑っても怒ってもいない、ただただ、きょとんとした表情で俺を見上げるソイツに、どうしようもなく腹が立つ。
「もう俺に関わるな」
誰も俺を見てくれるわけがない。
そんなの、わかりきったことだろ。腐った世界には、腐った奴しか存在しないんだから。
ーーそう、俺のように。
俺は、逃げるようにしてその場を後にした。行き場のない悔しさに、血が出るほど拳を握りしめながら。