「はあ……」

重いため息をつきながら、暗い夜道を歩く。

9月といえども、まだまだ暑い。最近は、地球温暖化の影響で毎年気温が格段にあがっている。

どうしたら止められるんだ?なんてことを考えながら、夜空を覆う分厚い雲を眺める。

ーー月は見えない。もちろん、星も。


真柴はこの先、きっと女の人と付き合って、女の人と結婚して、子供ができたら育てて、父さんになる。

真柴のパートナーは、女なんだ。それが、"普通"なんだ。



『私と真柴くんは、"普通"の恋愛をするから』



先ほど、あの女に言われた言葉が俺の頭の中でグルグルと渦巻き続ける。

どれだけ考えないようにしても、まるでまとわりつくかのように。

"普通"の考えが、俺の心に執着し続ける。


「んだよ、普通って……」


そう呟くと同時にポケットから取り出した赤色のハチマキは、俺がずっと握りしめていたせいで、しわくちゃだった。

少し湿ったそのハチマキのしわを伸ばすように、手のひらで撫で付けるけど、一度着いてしまったしわは、やはり簡単には綺麗に戻ってくれない。

戻すのに必要なのは、熱ーー。


まるで、人間の心みたいだな。


空を見上げるのをやめ、川を跨ぐ橋に差し掛かった時のことだった。


「ーーー!」

「ーーー……!」


歩道の反対側から、複数人の揉める声が聞こえてきたのは。

車が通る音や、川の流れる音でよく聞こえない。

しかし、目を向けた瞬間に、視界に飛び込んできたのだ。



歩道の真ん中で、複数人にリュックの中の教材をばら撒かれているアイツを。


真柴のことが大好きで、異常なほど尊敬の念を抱いている。

真柴と話す俺に嫌悪感を隠そうともしない。

滝真紘をーー……。