おそるおそる振り返ると、そこには椅子に反対に跨った状態で棒付きキャンディを加えている男子生徒。
誰だ……?
こんな時間帯に、こんな場所で……。つーかここ、空き教室なんかじゃなさそうだし……。
ホワイトボードにびっしりと書かれた何かイベントの計画に、壁に貼られているプリント、そして、中央にある机の上に散らばる大量の書類。
ここ、どこだ……?
「ここにいるんだろ、千羽!」
そう思った瞬間、目の前にあった扉が勢いよく開いて、耳をつんざくような怒鳴り声が聞こえた。
なんでここがわかって……!
「さあ、生徒指導室へ行くぞ!」
「はっ、ちょ……!」
あまりに多い情報に身体がついていかず、逃げる暇もなく俺の腕は鬼の形相の高橋に拘束されてしまった。
これで俺は生徒指導室連行決定かよ……。
大きなため息を吐きそうになったその時。
「まあまあ、高橋先生」
俺をの腕を掴む高橋の肩を、さっきのヤツがポンと叩いた。
コイツ……でけえ……。瞬時にそう思った。
俺の背後に立っている。それだけでわかる。
身長、最低180はあるんじゃないのか?
「む、真柴……」
そして、真柴と呼ばれた人物を目にした途端、眉間に寄っていたシワが一気にピンと張るなんて始末。
誰なんだ……?
「僕が指導しておきますので、今回は見逃してやってくれませんか」
「は……?」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
どういうことだ……?
俺の後ろに立つ人物の顔をチラリと伺うと、曇りなき笑みを浮かべて高橋を見つめていた。
「そうだな……じゃあ、この場は任せることにするよ。千羽、明日も遅刻するなら黙ってないからな!」
「へ……?」
予想外の展開に、口から間抜けな声が出る俺をよそに、高橋は教室を出て行った。
なんだったんだ、今の……。
つーか、なんで俺は見逃してもらえたんだよ……?
いや、そんなことよりもアイツ……誰だ……?
「2年8組、千羽魁」
「っ!?」
背後から聞こえた声に、反射的に振り返る。
なんで俺の名前……。
「銀に染めた髪、派手なツーブロック、乱れた服装、いくつものピアスーー……」
身長が180以上もあるそいつは、俺と視線を合わせるようにしてかがみ込んだ。
「校則違反しすぎ」