あれから、俺と同じように真柴も他の奴らに両腕をガッチリホールドされて、半ば無理やり連行されていた。

そうしてたどり着いたのは、大人数用のカラオケボックス。


ウチの高校の参加者が、俺と真柴を含め7人、そして、他校の参加者が6人、と言ったところだ。


それなのに、男女比がどう考えてもおかしい。


他校の参加者には、女子しかいない。なんなら、男子なんて13人中4人だけなのだ。

どうなってんだよ……。

俺は、ため息をつきたいのを我慢して、空になったグラスを机に置いた。
その動作の拍子に、まとわりついてくる女の腕が離れてくれねーかな、なんて淡い期待を抱いたが、やはり無理だった。


「そういえば、千羽くんの髪、金色だけど白に近い金色だよね?」

「短髪似合ってるね!ツンツンしてて可愛い〜」


俺が何も反応しなかったのが悪かったのだろうか、気づけば話題が俺の髪の話になり、極め付けには、隣に座っていた女の腕が俺の頭の上に伸びてきていた。

はっと息を呑んで、反射的に手を避ける。


「……勝手に触んな」


女を相手にこの言い方はまずかっただろうか。言ってから少々後悔の波が俺を襲った。

しかし、帰ってきたのは予想にもしない反応で。



「千羽くん可愛い〜〜〜」

「はぁ……?」



誰か、この地獄から救ってくれ。そんな気持ちを込めて高杉に訴えかけるのだが……。


「高杉くん、結構カッコいいよね〜」

「いやいや、俺なんて普通だよー」

「え〜?」


なんせ、高杉だって、世でいう"イケメン"の部類に入るのだ、女子が放っておくわけがなかった。

高杉は、女の子の褒め言葉をうまくスルスルと流しながら、俺に「ごめん、今抜けられなくて!」と、そんなフレーズの表現と共に、眉を顰めた。


もう1人の男子は、マイクを持って最近流行りの曲を熱唱している。


2人とも抜けられないのかよ……。


俺は、無理だとわかっていても、かすかな希望を持って、正面に座る、アイツを見た。


「っ、へ……?」


正面に座る真柴の顔を見た途端、俺の口から漏れたマヌケな声。

それと共に、頭がフル回転して、心臓がドクドクと脈打ち出した。


「真柴くんって、クールなんだね〜」

「生徒会長してるとか、かっこいい!」


相変わらず真柴の両隣を陣取ってくる女子にはもう諦めをつけたのか、抵抗もせずに、真柴は脱力していた。





隠しきれない不機嫌オーラを醸し出しながら、俺を睨みつけて。




嘘だろ、なんで俺のこと睨んでんだ……?

俺、なんかすげえ悪いことでもしたのか……?


俺と目が合っても、俺に対する不機嫌さを隠そうともしない真柴に、俺は相当マヌケな表情をしていることだろう。

いやいや、何をそんなに怒っているのかわからないのだから、仕方ないじゃないか。

それに、さっきから俺の心を覆い尽くしている"嫉妬"の感情に、余計不安が募る。


あぁもう、わかんねえ。

真柴が何を考えてんのか、俺にはなんっにもわかんねえよ……。



耐えきれなくなった俺は、とうとう真柴から視線を逸らした。

こんなとこ、なんで来ちまったんだ、俺……。



俺は、ついさきほど空になったグラスを手荷物と、両腕に絡まっていた女子の手を緩く振り落として立ち上がった。


「えぇ、千羽くんどこいくのっ?」

「ドリンク」

「え、それならアタシもーー……」


女子には申し訳ないが、俺は無視をさせてもらうことにした。

まあ、俺がいなくなったところで、高杉や真柴のところへ行くだろう。



俺は、ドリンクサーバーの前を通り過ぎて、コップの返却口にグラスを置くと、そのまま横にあるベンチに座り込んだ。


「はあ……」


この上ない開放感に、思わず安堵の息が漏れる。

やっぱ、俺にああいう場所は向いてないんだな。そんなことを再確認できた。


というか、俺が行く意味なんてあったのか……?


それに、俺を気分転換させるために誘ったとか言っておいて、真柴のことを誘うとか、高杉は一体何を考えてたんだよ……。



俺は、すっかり暗くなった店内の外を見ながら、ぼんやりと思った。