「だーかーら、俺は行かねえってーー」


「おーっす、遅くなったー」

「今日あの千羽魁が来るってほんと!?」

「もうすぐ合流の時間だから早く!」



まるで俺の言葉を遮るかのように、5、6人の男女が教室になだれ込んできた。

おそらく、今日合コンへ行くメンバーなのだろう、俺と高杉の姿を見つけて、手招きしている。


「さ、行くよ、魁くん!」

「はあ!?ちょ、おま……っ」

「生の千羽魁だー!」

「今日は楽しもうねー」


逃げ出そうとした俺の抵抗も虚しく、あっという間に両腕を他の奴らにホールドされてしまった。


「離せって……」


俺の片腕をホールドしているのが女子だから、なんとも窮屈で、振り払うわけにもいかず。

結局俺は、されるがままに連行されていた。



しかし、問題はここからで。



「俺さ、ずっと千羽と話したいと思ってたんだよな!」

「え、私も!ちょっと憧れ?っていうか」

「有名人だったもんなー」



そんなことをワイワイと騒ぎながら、生徒玄関に差し掛かった時だった。



「っ、あ……」



生徒玄関の下駄箱に背を預けるようにして立っていた人影を見て、不意に、俺の口から漏れた短い声。きっとそれは、周りの奴らには聞こえてなくて。


目が合ったアイツと俺の時間だけが止まったような、そんな感覚に陥った。


相変わらず、おそろしいほどに整った切れ長の目で、まるで俺の全てを見透かすかのように俺のことを見ていたのはーー



真柴だったから。



そういえば、真柴の姿を見かけるのなんて、体育祭以来だな。

俺が2年生で、真柴が3年。

学年の違う俺たちは、普通に学校生活を送っていればすれ違うことすらない関係だったのだ。


そう、俺がやざわざ生徒会室にまで足を運ばない限り。


俺が行かないと、アイツとは会えない。

あぁそうか、俺とアイツの関係は、こんなふうにすぐに会えなくなるほど薄っぺらいものだったのか。



そんな自己嫌悪に陥って、ひとりで勝手に気まずくなって、生徒会室を避けていただなんて、ダサ過ぎて誰にも言えない。


「でも、千羽くんが合コンにきてくれるなんて思ってもなかった〜」


タイミング悪く、その声だけがボリュームが大きくて。

まずい、そう思った時には遅かった。

真柴は、俺と、俺の腕に抱きついている女子をチラリと一瞥すると、ふいっと目を逸らして、俺に背を向けた。



『あっそ』とでも、言うかのように。