「ねぇ、魁くんって名前だっけ〜?」

「アタシ、魁くんみたいなのちょっとタイプかも……」

とあるカラオケルームにて。

俺の両サイドに座る女たちが、ベタベタと俺の腕に絡みついてくる。

そんな俺の向かいのソファには、真柴。そして極め付けに、真柴を囲むおびただしい量の女たち。


「あぁもう、なんなんだよ、この状況は……」


俺はため息をついて、頭を抱えた。




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遡ること、数時間前。



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体育祭から、数週間がたった。


「なに魁くん、恋する乙女みたいな顔して」

「バッ……!てめ、声でかいんだよ!」

「あはは、ごめんごめん」


放課後の教室で、窓から見える空をぼーっと眺めながら頬杖をついている俺に、高杉が好奇心満々といった表情で、俺の頰をつついた。


「えー、なになに、千羽好きな人いんの!?」

「誰!?クラスの子!?」

「うっせぇ!」


あぁもう、言わんこっちゃない。

俺は、はあ、とため息をつくと、ニヤニヤと笑みを浮かべてこちらに走ってくるクラスメイト数人を一括して追い払ってやった。

ぺろりんちょ、なんて効果音がつきそうなほど舌を出して謝るポーズをした高杉をひと睨みする。



「いやぁ、魁くんが生徒会長が好き過ぎて辛い、みたいな雰囲気出してたからさ」


「なっ……んだよ、それ」



なんでわかるんだよ!?と言いかけた言葉を、慌てて引っ込めたつもりだったのだが、やはりこの反応は不自然だったようだ。

高杉は、「へーえ?」と胡散臭い笑みを浮かべて、俺と同じように頬杖をついた。



「魁くんさ、他の子とか、興味ない?」


「……なーー」


「ストップストップ!決断が早すぎるよ魁くんは」


「んなこと言ったって……」



他のやつなんて、1ミリも興味なんてわかないし、ましてや恋愛対象だなんてなおさらだ。

興味なさげに視線を再び窓の外に放り投げた俺を見て、高杉は少し肩をすくめたかと思えば、観念したように言った。



「合コンあるんだよ、今日」


「合コッ……!?」


むせかえるように勢いよく振り返った俺に、高杉はくすっと笑みをこぼした。

合コンって、あれだよな……?出会い目的の集まりの……。

そんな言葉、今時の高校生の口から出てくるもんなのかよ……!?



「魁くん色々悩んでそうだし、気分転換にどうかなーって。たまにはいいでしょ」


「は……え、いやいや、俺はいい」


「そんなこと言わずにさぁ?魁くん、自分が男前っての気づいてる?」


「んなこと知るかよ……」



どんなに顔が良くたって、好きなやつに好きになってもらわねえと、意味ないんだよ……。そんなコメントは喉の奥深くにしまっておくことにした。


「行ってみるに越したことはないって、ほら、いい子見つかるかもしんないしさ?」


もうすぐみんなが迎えにきてくれるはず……と、高杉が誰かとスマホでメッセージのやり取りをしながら呟いていた。