こうなっては彼に顔向けなんて、到底できない。
俺は、隣で今にも鼻血を出してしまいそうな真紘を置いて、逃げ込むようにして校舎へ入り込んだ。
昼間だというのに、生徒も先生も、誰もいない廊下はがらんとしていた。
「っ、はぁ……」
さきほど、俺の口から溢れるようにして声に出た「好きだ」の3文字。
ーーでも。
たくさんの女子に囲まれていた真柴の姿を思い出す。
俺はあそこに混ざれるか?
堂々と、真柴が好きだと言えるのか?
俺が……男が、男を好きになっても、いいのか……?
ツキ……っと、胸に針が刺さったような、鋭い痛みが胸に広がっていく。
わかんねえ、なにもかもわかんねえ。
俺は男で、真柴も男で。
でも真柴を囲んでたやつは女で。
"普通"は、女と男が付き合うもんで……っーー。
考えれば考えるほどに、ジワジワと脳に麻酔がかかるかのように体から感覚がなくなっていく。
俺の体じゃない、そんな感覚。
ああ、俺、最低だ。
自分で自分を受け入れられない。そんな人間、最低だ。
気がつけば、薄暗い生徒会室でしゃがみ込んでいた。
こんな時でさえ、ここに来ちまうのかよ。
ふっと嘲笑して、膝に顔を埋める。
「くっそ……」
今の俺は、俺自身を受け入れようとすることに必死だ。それなのに、周りの奴らとか、真柴からどう思われるかとか。
そんなことしか考えられない。
そんな自分がとてつもなく悔しくて、しんどくて。
荒くなる呼吸を落ち着けながら「クソ……」と呟いた。
頭に巻いていたハチマキを乱暴に外して、床に投げつける。
好きだと思った人を好きになって。
ただ好きになった人がたまたま男だったことのーー
「っ、何が悪りぃんだよ……っ?」
やべえ、泣きそうだ。必死に歯を食いしばって、目に力を入れる。
俺は泣かない。悪いことも、悲しいことも何もない。
ーーそれでも、世間一般的な考え方が、俺の頭の中を埋め尽くした。
ああ、辛い。
恋をするって、こんなにも窮屈で、辛いものなんだな。