こうして、今に至る。


あぁ、もう。もうすぐで俺の順番が回ってくる。そう、前走者があと100m走れば、俺は走らなければいけない。

俺は、伸びをするフリをしてあたりを見回す。

ーーそう、このどこかに真柴もいるのだ。きっと見ている。


俺が走っているところを、見られる……。


ちょっと待て、これは俺の見せどころじゃないのか?俺の唯一できること、誇れることといえば、速く走ることだ。


赤、青、緑、白、桃、橙、黄、紫。

この8つの色の走者たちが競り合って走ってくる。


俺の色ーー桃組は、前から3番目。1番とは、さほど距離が開いていない。

よし、いける。これは、真柴に俺がかっこいいところを見せられる。


3位から前の2人をごぼう抜きして、トップになって次に渡すんだ。

そうしたら真柴は、なんて言ってくれっかな。


『頑張ったな』?それとも『すげえじゃん』か?


いいや、もうなんでもいい。とにかく、真柴の目を俺に釘付けにしてやる。


低く構えた俺は、前走者からバトンを受け取ったと同時に、一気に加速したーー。




ーーーーーーーーーー




「あぁ、悪い。見れてなかったわ」

「はあ!?」


真柴は、赤色のハチマキを結び直しながら、あっけらかんと言い放った。

あれからリレーが終わると同時に、一目散に生徒会長である真柴のいる本部テントへ向かったのだが……。



どうやら、俺の走ったところだけ、機材運びなどでこの場にいなかったらしい。


いつのまにか、ハチマキを結ぶ真柴に見惚れていたことに気づき、ブンブンと頭を振る。



「なんでだよ……」


しょぼん、と肩を落とす俺に、真柴の横にいた真紘がバカにするような笑みを浮かべた。


「僕も真柴先輩を手伝ってていませんでしたぁ」

「真紘、テメェ……」

「まあまあ、悪かったって」


今にも取っ組み合いを始めそうな俺たち二人の間に真柴が入り、宥めようとする。

俺のリレーを見ていなかったことを、真柴はなんとも思っていなさそうなのが、さらに俺を沈ませた。


「見て欲しかったのか?」


まるで拗ねた小学生に接するかのように、背の高い真柴が俺の視線に合わせるように膝を屈ませる。


「別に」


俺も、なんでこんなに拗ねてるんだよ。ガキじゃねえか。


「じゃあ、俺のは見とけよ」


「……はっ……?」


下を向いて不貞腐れている内に、真柴は俺の目の前から消えていた。その代わりに、肩をポンと叩かれた。




《今から騎馬戦に出場する生徒の召集を行います。出場する生徒はーー……》



慌てて振り返ると、真柴は種目に出る生徒の招集場所へ向かっていた。

っ、まさか、アイツ……!



「あぁ、真柴先輩、騎馬戦に出るんですね!カッコいいんだろうなあ……」



まだ一年生で、今までの体育祭を見たことがない真紘は、真柴が爽やかに騎馬戦を取り合う姿を想像しているのだろう。

鼻の下を伸ばして幸せな妄想中だ。


知らないからこんな幸せな気分になれるんだ。


ーー俺は知っている。




《さあ、始まりました。第3種目、騎馬戦!》


「キャァァァアッ!」

「やばいやばいやばい!」


アナウンスがされたと同時に、これでもかというくらい女子の高く、黄色い悲鳴。

ーーそう、この学校の騎馬戦、それは。



「っ!」



ヒュッ、と喉が塞がった。





ーー騎馬戦に出場する男子は、上裸になるのだ。